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式 辞
陽射しもすっかり明るくなり、春の訪れがすぐそこに感じられる頃となりました。
本日はご多用のところ、土佐市長 板原啓文様始め、多数のご来賓、保護者の皆さまのご臨席を賜り、
ここに平成二十三年度 高知県立高知海洋高等学校 本科卒業証書・専攻科修了証書授与式を挙行できますことを、心より厚く御礼申し上げます。

ただいま、卒業証書並びに修了証書を手にした本科生三十五名、専攻科生十名の皆さん、卒業、修了おめでとうございます。
また、本日に至る道のりを温かく見守り、励まし、導いてこられた保護者の皆さま、本日は誠におめでとうございます。今日のお喜びも、
さぞひとしおのものがあろうかと存じます。教職員を代表いたしまして、心よりお祝い申し上げます。そして現在、遠洋航海、乗船実習中の「土佐海援丸」におきましても、機関コースの二年生、航海専攻科の一年生、船長始め乗組員、指導教官、皆きっと祝福してくれていることと思います。
さて、昨年は東日本大震災という未曾有の大災害がわが国を襲い、めまぐるしく変わる世界情勢とも相まって、
これまで日本が培ってきた価値観をはじめ、これからの日本の在り方が根底から問われているところであります。
このような世の中が混沌とした時代を迎える中、本日卒業、修了を迎え、新しい職場や学校に飛び立とうとしている皆さんに、
私たちの郷土の誇りジョン万次郎こと中浜万次郎の志を述べ、皆さんを激励したいと思います。
ジョン万次郎については、皆さんご存知と思いますが、彼は日本で初めて英語とアメリカ文化を日本に伝えた人であります。彼は現在の高知県土佐清水市で生まれ、
14歳の時に、この高知海洋高校のある宇佐の港から4人の乗組員と共に、カツオ船でアジ、サバ等の漁に出かけました。ところが嵐に会い、
鳥島まで流され、そこで約半年間の漂流生活を余儀なくされていましたが、運よくホイットフィールド船長率いるアメリカの捕鯨船に助けられたのです。
そして、彼の捕鯨船での働きぶりや誠実な人柄によりホイットフィールド船長に気に入られ、アメリカの自宅まで連れて行ってもらうことになったのです。
そこでは家族同然に大切に扱われて、我が海洋高校のような航海術を教える学校にも行かせてもらうことができました。そして努力の甲斐あって、なんと主席で卒業したそうであります。その後、母に会いたいという気持や、アメリカの事情を一刻も早く伝えたいという一心で日本に帰国する決心をしたのですが、当時の日本は鎖国中であり、万次郎は帰国をすれば命を脅かされるということを承知で日本に帰ってきたのです。
そして、英語を始め、当時のアメリカの最新の科学技術や文化を日本に伝えたのです。
また、万次郎は日本から初めてアメリカまで航海したことで有名な咸臨丸に通訳として乗船することを命じられ、司令官の木村摂津の守、艦長の勝海舟や福沢諭吉などと航海をともにしました。
勝海舟は相当な航海術を身につけていたのですが、ひどい船酔いが続き、部屋にこもりっきりの状態になってしまい、万次郎は勝海舟からアメリカに着くまでの航海のことを頼まれることになったのです。そして、万次郎は見事に咸臨丸をサンフランシスコに着けることができたのであります。アメリカの捕鯨船で地球を2周する大航海を経験していますから当然かもしれませんが、たいした航海術の腕前と言わざるを得ません。
万次郎は坂本龍馬を始め維新に活躍した名だたる人々にも大きな影響を与えています。もし万次郎がいなかったら、日本の近代化や明治維新もどのような形になっていたか想像もつきません。
万次郎は日本に帰ってからは、貧しい人々や困っている人々をよく助けたそうであります。これは、このような人々に対して手助けすることが、
自分を助けてくれたホイットフィールド船長の恩に報いることになるのだという、強い信念があったからであろうと推察されます。
現在のような価値観が混沌とした時代に、絆ということが盛んに言われておりますが、ホイットフィールド家と中浜家とは170年の時を超え、
現在も親戚以上の交流が続いているそうであります。国境、人種の壁を越え、このように長く交流できるということは、170年前から代々、
人としての生きる姿勢が変わりなく、お互いが尊敬し、信頼し合っていることの証しであります。これこそまさに両家が絆で結ばれているということではないでしょうか。
しかしながら、このように活躍した万次郎でさえ、はじめから日本を開国に導くという大目的があったわけではありません
。鳥島に漂着した時は何とか命が助かりたいという目の前の目標を達成することから始まり、次にはホイットフィールド船長からの誘いがあったにしても、
自らの意志でアメリカに渡る決意をし、未知の世界に飛び込み、最後には日本を開国に導いた立役者として大事業をなすことにつながっていったのです。
皆さんには、この万次郎の何事にもくじけることなく積極的に、直面する勉学、仕事に全力で取り組んでいく姿勢を見習って欲しいと思います。そうすればその先にはおのずと自分の目的も見えてきます。そして、その目的を達成することがつまりは人の為に尽くすことになり、社会への貢献にもつながるのだということを理解して貰いたいのであります。
この万次郎とも縁の深い高知海洋高校で学んだことを誇りに思い、それぞれの学校や職場で、たとえどんな困難に出会おうとも、
くじけることなく精進して自分の目的を見出し、日々たゆまぬ努力を続けていってください。そして、これからのそれぞれの人生を力強く歩いていってください。
それでは、希望に満ちた出発の日に当たり、卒業生、修了生の皆さんが、この後、地域や社会に貢献できる人材となられ、大きく羽ばたかれることを祈念しまして、式辞といたします。
平成二十四年三月一日
高知県立高知海洋高等学校長 森 誠一
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