司会: 本日ご講演いただきますのは山代猛博先生でございます。ご講演に先立ちまして、講師の紹介を高知県教職員課長 東好男が申し上げます。

東 課長: それでは、講師の山代猛博先生をご紹介させていただきます。山代先生は、皆様よくご承知のこととは存じますが、学校教育法施行規則の改正により実現が可能となりました、いわゆる民間人からの登用による校長先生として、現在、広島県立福山誠之館高等学校にお勤めでございまして、民間経験を生かされた学校経営を展開されていらっしゃいます。

 山代先生のプロフィールにつきましては、お手元にお配りしました本日のプログラムの2ページに掲載しておりますが、昭和18年のお生まれの、広島県広島市のご出身でございまして、大阪大学法学部をご卒業後、昭和43年に東洋工業、現在のマツダにご入社されました。営業の第一線をご経験された後に、昭和54年から9年間は、いわゆる企業内教育における人材育成部門を総括されまして、昭和63年からは、本社や地区の総括責任者として、また会社の代表として赤字経営を黒字に転換するなど、組織のリーダとしてご活躍をされました。

 このように、マツダという自動車業界の大手企業で、営業や社員教育のプロフェッショナルとしてご活躍されてこられました山代先生に、転機が訪れましたのが平成13年の春でございます。現任校の福山誠之館高等学校は、安政2年に藩校として開校されました、文武両道の精神をモットーとした伝統のある学校でございます。

 現在、先生は、広島県教育委員会から評価制度に関する研究指定を受けられた学校の校長としまして、自己申告制を踏まえた、目標管理型の評価制度の導入について取り組みを進められておられます。その中で、100名を超えます教職員1人1人と面談を実施し、各教職員が意欲を持って課題解決に向かう過程を指導・助言しながら、1人1人の教職員を育てる観点を大切にした、公正で透明性のある評価制度の確立に向け、具体的な実践活動を進められておられます。

 また、先生は校長室の前に生徒に対するメッセージ箱を設けられまして、子供達が自由にこの先生の直筆メッセージを持ち帰ることができるような取り組みをされるなど、学校経営に対するビジョンや考え方などを、保護者や子供達に積極的に情報発信する取り組みも実践されておられます。

 また、校内LANを使いまして教職員への情報発信や、教頭先生や各主任の先生方の能力開発のための研修企画など、これからの教職員に求められる資質向上の取り組みにも積極的に取り組んでおられます。

 本日は、産業界と教育界の相違点や、あるいは類似点、接点など、校長先生の経験を基に、幅広い観点からご講演をいただけるものと楽しみにしております。

 山代先生、限られた時間ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。

司会: それでは、お待たせいたしました。講演に入りたいと思います。

 本日、ご講演のテーマは、「新しい時代における人材育成」です。山代先生、よろしくお願いします。

(拍手)

山代猛博校長: ただ今ご紹介いただきました福山誠之館高等学校の山代でございます。

 先程ご紹介がありましたように、昨年の4月から、伝統ある福山誠之館高等学校の校長として就任したわけでございますが、その際の感想を一言で申しますと、「人生というのはどうなってるんだ?」というものでした。実業の世界から学校の世界に入るという、そういう道があるということすら、頭の片隅に一片もない時に、そういうことが我が身に「学校の校長にならないか?」というお話が舞い込んでくるということに接しました。その時に、「人生というのは、本当にどうなってるんだ?人生というのは素晴らしいな。」と、「思いがけないことが起きる。」という思いを強く持ちました。

 当然のことですけど、論文を書き、面接を経て採用ということになったわけでございますけど、面接の際に、「小・中・高のどこへ行かせて欲しいか?」ということがございました。で、私は、元々「高等学校へ行かせて欲しい。」という思いが強かったわけですから、「高等学校へ行かせて欲しい。」と申しましたところ、「なぜか?」と訊かれました。で、私は、33年間、ご存知の自動車のマツダに勤めたわけでございますけど、「高等学校というのは、もう社会の入口にある。」と考えておりましたので、「社会への橋渡しがしたい。」と答えました。

 余談ですが、たまたま小学校の校長になっている者がおりまして、彼は面接で「小学校に行かせて欲しい。教育の入口がやりたい。」ということを言ったそうです。これは後になって分かったわけでございますが、話し合ったわけでもないんですけど、出来過ぎた話で上手く「教育の入口をやりたい。」と言った者と、「社会への橋渡しがしたい。」と言った者がおったという事実がございます。

 1年ちょっと経ちまして、実は、校長先生方をはじめ、周囲の色んな人から「もう慣れましたか?」と訊かれます。で、私は、広島県ではこういうお話しをしないんですけど、他県でお話しする場では、ちょっと紹介するんですが、「もう慣れましたか?」というのは、私にとりましては大変屈辱を感じておるわけでございます。「仕事というのは、与えられたら即もう仕事にとりかかれなきゃいけない。」というのが私の考えで、33年間勤めてまいりまして、大阪から岡山、九州の佐賀、あるいは東京、京都というふうに点々と転勤しながら、翌日からすぐ仕事をしなきゃいけないという状況で来ましたので、「1年経ってもう慣れましたか?」というふうに言われるのは非常に面くらいました。「あれ?学校の世界っていうのは1年間は慣れる期間が要るのか。」と感じたわけでございます。というわけで、昨年の4月から実際には仕事に取り組んでおりまして、後で色々お話しするものを取り組んでまいりました。

 私は、昨年4月に就任いたしまして、「1つ大事にしなければいけない言葉がある。」と感じました。それは何かと言いますと、今まで「学校運営」と言われたものが、文部科学省あるいは県教委の発信を見ますと「これからは学校経営に変えなきゃいけないんだ。」というふうなことが言われております。で、私は「これは1つのキーワードだ。」と感じました。「学校運営」と「学校経営」というのは一体どこがどう違うんだろうか?ということも考えてみなきゃいけと思いました。

 で、私なりに理解しましたのは、学校運営というのは、学校というのは3月の年度末に次年度の、いわゆる行事計画を含めて、色んなプランを立てる。そして1年間のプランを立てて、年度が始まりますと、それをこなしていくというふうに受け止められたわけです。で、私は、「経営というのはちょっと違うんじゃないんか?」と、「経営というのは、もう少し先を見据えてやらなきゃいけないんじゃないんか?」と、「少なくとも、学校というのは3年先は見据えてやらなきゃいけないんじゃないんか?」と、「最低が3年先だろう。」と。なぜならば、高等学校も1年生が入ってきて3年で卒業するまで、1年生、2年生、3年生というふうに切っておりますけど、実は連続した流れなんですね。これは小学校も中学校も同じ事だと思うんです。我々が便宜的に切っておるだけであって、子供にとっては連続した流れであると。成長の流れであるというふうに捉えた時に、やはり、少し先を見据えた目標をキッチリ設定して、そのために色んな策を考えて、それを評価し、改善しながら最終的な目標を達成するというのが、経営であると考えたわけでございます。

 まあ、当然といえば当然なんですけど、運営と経営、で、「経営に変わらなきゃいけない。」ということを大事に、重く受け止めてスタートいたしました。

 今日は「企業と学校」というレジメを用意しておりますけれど、レジメからちょっと外れることもあるかとも思いますので、ご容赦をいただきたいと思います。

 「赤字会社の共通点」というのを、そこに書いております。実は、私も多くの会社を見てきました。で、私が行きました京都のマツダの会社は、今だから言えるんですけど大赤字でした。そこを立て直さなきゃいけないということで、4年間ほど京都の会社の社長をやったわけですけど、赤字会社の共通点というのが幾つかあるわけです。これは全く共通なことなんですけど、その4つ、5つをご紹介いたしますと、まず1つは「ビジョンが明確でない。」ということですね。

 ビジョンが明確でない。「うちの会社の社長は、この会社をどういうふうにしたいんかよく分からない。」と、こういう社員がいる会社なんです。ビジョンがハッキリしてない。

 それから2つ目は、「目標が明確でない。」、「うちの会社の社長は、『頑張れ、頑張れ。』と言うけど、どういう目標を持って、どこへ到達しようとしてるのかよく分からない。」という会社があるんです。そういうことを言う社員がいるという会社。これが2つ目なんですね。

 そして3つ目が、目標はあってもただ「頑張ろう、頑張ろう。」と言ってるだけで具体的な策がないということなんですね。「具体的な策がない。」

 4つ目、社員がバラバラで動いてる。

 5つ目が、社員がレベルアップしようというものがなされてない。「人材育成というものがそこの会社で行われてない。」という会社があります。

 今5つほど申したんですが、大体共通項だろうというふうに思うわけです。これを、実は昨年学校に行きまして、先生方にもお話ししました。「学校も似たような所があるんじゃないんだろうか?」というふうなことを申しました。「やはり学校も、ビジョンを明確にし、あるいは目標をキッチリして、そして具体策を持って、そして社員がそういうものをみんな、社員、教員ですね、教職員がそういうものを共有化して、みんなで1つの方向にベクトルをあわせて、そして能力を高めるための色んなことをやっていくということが、やはり組織として一番大事なんじゃないか?」ということを話をしたわけでございます。そして、「学校というのは、何を生み出してるんだろうか?」ということも話をしました。

 私は、学校の世界に入りまして、「企業と学校というのは一緒だ。」というふうに、先生方には言っておるんです。「変わらない。一緒なんだ。」と。それは何かと申しますと、1つは、企業というのは何かを生み出してるわけです。生み出す。生み出さない組織というのは、単なる親睦会なんですね。単なる集まりなんです。で、組織というのは、必ず何かを生み出す目的があると。

 例えば、会社の場合ですとある商品を生み出す。あるいはサービスを生み出す。銀行もサービスを生み出してるわけですね。マツダという会社は車を作って、商品を作り出してる。生み出してる。あるいは、サービスも生み出してると。その商品が出たというのは結果であると。それが売れたかどうか?というのは、さらにその結果なんだと。県というのは、じゃあ何を生み出してるのか?県の行政ですね、何を生み出してるのかと言うと、行政サービスを生み出してるんだということを言ってるわけですね。

 じゃあ、学校は何を生み出してるのか?学校は、私は、授業を生み出してるんだと。授業が学校の命である。授業が最高の品質の物でないといけない。質の物でないといけないということを話をしております。

 そして、もう1つはサービス。じゃあ、企業で言うサービスというのは学校に置き換えたら一体何だろうか?というふうに考えた時に、それは生徒指導であり、生活指導であり、進路指導であり、色んな場面場面での指導であるというふうに捉えた時にですね、実は最初に、マツダの例で話しましたが、「車が出たというのは結果である。」というふうに申しましたが、実は、民間企業で大事にしてますのは、そういう、良い車が出せる。あるいは良いサービスが出せる。世に出せる。そのためには、会社の組織が本当に機能化し、活性化し、連携し、イキイキと活性化してるという状態でないと良い物は生まれない。これが民間の1つの考えなんですね。

 学校も同じだと。「良い授業、質の高い授業、そして質の高いサービス、生徒指導ですね。そういうものを生み出そうとした時に、やはり学校の組織が活性化し、あるいは機能化し、そして連携し、調整し、本当に力を合わせた形でまとまっておらなきゃ良いものは生まれない。」というふうに私は言ってきたわけです。

 そして、「学校と企業というのは一緒なんだ。」というもう1つは、企業というのは何をしてるかと言いますと、「変化対応」というのをしてるんですね。もう、世の中目まぐるしく変化してる。例えば、何気なしにNHKのニュースの一番最後に、皆さん方はご覧になってるかも分かりませんが、為替のレート、これが50銭、1円単位で毎日変わっております。これで企業というのは利益が・・・、例えば、まだそういう数字を言うべきでないかも分かりませんが、マツダの場合ですと、1円円高になると30億円の利益に影響すると。10円ですと300億という、毎日毎日何億というものが動いていくと。そういうふうに、日々世の中は変化している。

 で、それにどう対応していくか?という活動が、お客様の思考、お客様のお考え、そういうものもドンドン変化していると。そういうものに対応した商品も出さなきゃいけないと。そうしないと売れないということですから、とにかく「変化対応活動」なんですね、一言で言えば。「変化にどう対応していくか?」というのが、企業の活動なんだということなんです。

 じゃあ、学校はどうなんだ?学校は変化の中にないのか?学校は何も無風状態の中でジーッとしてるのか?ということを先生方に言うわけです。そして、「学校もよくよく外を見てみれば、ものすごく変化してるじゃないか。」と、勿論、週5日制だとか、あるいは新しい教育課程だとか、色んな問題もあります。文部科学省の考え方もドンドン変わっていきます。あるいは中学校もドンドン変化してる。小学生もドンドン変わってきてる。保護者の考えも変わってきてる。県教委も変わってきてる。あるいは、色んな形でその学校を取り巻く環境というのは、本当に刻々と変化してるというふうに私は捉えておるわけです。

 そうすると、学校もそういう変化に対応していかなきゃいけないんだ。例えば、「週5日制で、今年は大変だ、大変だ。」と言っております。大変です。本校も大変です。しかし、これはもう何年も前に分かっておったことなんですね。そうすると、何年も前に分かっておって、予測できることなんです、もうこんなことは。ある日突然予測できないことが起きたわけじゃなくて、もう、当然予測しておったことが今年度起きているわけですから、当然、「大変だ、大変だ。」ということの前に色んな対策を打っておくというのが、まあ、私共の民間の発想なんですね。

 今、先生方に言っておるのは、「もう全国どこも大変なんだ。うちの学校だけが大変なんじゃないんだ。後は、時間を生み出す知恵をとにかく出そうじゃないか。どうやって時間を生み出すか?というのが、これからの学校間の知恵の出しどころだ。」というふうに、今は言っておるわけでございます。

 それからもう1点、まあ似たような所と言いますか、同じようなところはですね、企業というのは、目標を達成するチームなんですね。私は今、教職員のみなさんに言ってますのは、「学校は、目標を達成するためのチームである。」と、「チームなんだ。」ということを言っております。これが、私が今一番強調して言っていることでございます。「私に学校目標の全責任があるんだ。校長1人に全責任があるんだ。」ということを言っております。そして、「その目標をみんなで分担してるんだ。みんな役割を持って分担してるんだ。」ということなんですね。そして、みんなでその目標を分担して、そして力を合わせて、それぞれが目標を達成すると全体目標がいくわけですから、「チームなんだ。」と、「サッカーのチーム、野球のチームと同じなんだ。チームなんだ。みんなで力を合わせて達成するんだ。」と。「そこには校長と教員の対立なんていうのはあり得ないんだ。」ということを実は言っております。「目標に向けて、みんながそこに向けて力を合わせていくチームなんだ。」ということを言っているわけでございます。これは、企業も学校も同じなんだということなんですね。

 実は、昨日も主任以上、教科の主任と、それから校務分掌の主任20人、管理職も入れまして研修会をやってまいりました。そこで、何を言ったかと言いますと、「3つほどキーワードがあるんだ。」と、1つは、何度もこれは繰り返して言ってるんですけど、「学校は目標を達成するチームである。」と、「2つ目は、仕事には、目標と納期と出来栄えというのがあるんだ。」と、「質、品質」と言います。まあ「出来栄え」ですね。仕事をやった結果の出来栄え。そして「納期」、スケジュールですね、いつまでという。そして必ず「目標」というのがあるんだ。これは、まあ仕事の当たり前なんだと、これは。

 それから「仕事には2種類あるんだ。1つは、通常業務。2つ目は、戦略業務。」3年先を見据えて今やっておかなきゃいけない仕事というのがあるんだ。ちょっと先を見据えて、今やっておかなきゃいけない仕事をやっておかないといけないんだ。そしてもう1つは、通常の仕事があるんだという、「この2つを使い分けよう。」ということを、昨日、勉強会をしたわけでございます。

 今、「学校も社会の一員である。」ということで、私共、「学校いじめが起きてるんじゃないか?というふうに錯覚してるんじゃないか?」ということも言います。学校いじめじゃないんだと。色んなことを学校は今言われてます。アカウンタビリティ(説明責任)だとか公開とかですね、「開かれた学校」そして「フェア、クリーンでないといけない。」とかですね、色んなことが学校に言われております。その度に「いや、しんどいなあ、しんどいなあ。」と、「変わっていくのがしんどい。」というふうに受け止めがちなんですけど、「これは学校いじめじゃないんだ。世の中で起きてることが、学校に言われてるに過ぎないんだ。もう当然なんだ。」と。今、日本も世界の中でそれを言われているわけですね。「説明、日本人は曖昧である。」とかですね、「クリーンでない。」とか、「フェアでない。」とかですね、色んなことが突きつけられて、日本全体が変わらなきゃいけない。あるいは、そういうものが今度は企業だとか、社会全般に言われてまして、そして、学校も同じ事が言われてるに過ぎないんですね。

 ですから、「そういうふうに捉えなきゃいけないんだ。」ということを、実は言っておるわけでございます。そういう意味で、学校も企業一緒だと私は受け止めておるわけです。

 私は、昨年入りまして、マスコミが色々押し掛けてきまして、「外から見た学校と内から見た学校はどうですか?」というふうに、いつも訊かれました。私は、いつも答えましたのは、「外から見て学校の中はよく見えなかった。一部の保護者の皆様とかですね、そういう方以外は、学校に日頃から付き合いのある人以外には学校の中は見えない。しかし学校に入ってみると、学校というのは素晴らしい活動をやってる。」ということを、いつも私はマスコミに言っておりました。「先生方も一生懸命だ。夜遅くまでやってる。そういう姿、一生懸命頑張ってる姿が伝わってない。そして悪いニュース、問題行動が起きたりですね、問題が起きればマスコミがとりたてて、そして『学校というのはとんでもない所だ。』というふうなことを言ってるんじゃないか?」ということを私はマスコミに言ってまいりました。

 「頑張ってるよ。学校は。」ということを言ってきたわけですけど、そういう中で、表には言いませんけど、気がついたことが数点ございました。それがそこのですね、2番目に書いてあることなんですね。例えば、先生方は一生懸命やってるんだけど、ベクトルがあってない。例えば、「ビジョンだとか目標がハッキリしてないもんですから、一生懸命やってるんだけど、どういう方向に行ったらいいのかよく分からない。」っていうふうなことがあるんではないか。まあ、これは本校のことですから、昨年の4月に私が感じたことですから。

 それから、「手段が体系的に整理されていないで積み上げ方式である。」こと。要は、前年度やったことに「今年は、またこういうことをやらなきゃいけないんじゃないか?」ということでドンドン積み上げてる。で、忙しい、本当に窮屈になってる。本当は、そのやってることにはそれぞれ目的があって、目的と手段というのは、必ずあるわけですけど、そういうことがきれいに整理されてなくて積み上げていってる。だから、もう窮屈になって大変な状態だというふうに私は感じたわけでございます。

 それから、「情報が不足して、思考の幅が狭い。」ちょっとこれは失礼な言い方なんですけど、情報が、先生方の所に行き届いてないんじゃないか?校長、教頭の所で止まっている情報が多いんじゃないか?というふうに感じます。そして、とにかく情報を流そうと。「世の中はこんなに変わってる。」、あるいは「世の中はこんなに素晴らしい学校がある。先進校と呼ばれる素晴らしい学校、こんな取り組みしてる学校もある。」というふうな情報をドンドン流そうということをやっていきました。そして、先程ご紹介がありましたように、本校は広島県で初めて、全教職員に100台ほどですが、パソコンを支給してもらいまして、そしてネットで結び、校内LANを完成させております。これは県の大英断でやっていただいたわけですけど、これが非常に大きく機能しております。そうすると、情報が素早く全教職員、事務の人も含めて全員に、「学校の方針」とか、あるいは今の県の考えだとか、また、教育庁のホームページも全員が見れます。そういうことを、今、進めています。

 そういうことで、先生方が言うのは、私、校長と先生方の情報の共有量は、97%だと。校長だけが持ってる情報というのは、3%に過ぎない。今、そこまで来てるというふうに言っております。ということはどういうことか?というと、「皆さん方が校長と同じぐらいの判断ができなきゃいけないんだ。」ということを言ってるんです。民間の場合そうなんです。社長と社員は、今、イントラネットでやってますから、やっぱり95%位共有してるんじゃないかと思うんですね。で、5%は会社の極秘の、例えば合併だとかですね、まだ表に出ちゃいけない情報があるでしょうから、まあ5%位はやっぱり民間でもあるだろう。学校の場合は3%だとか、2%だというふうに私は思っています。「そこまで本校は来てるよ。」と、「だから、先生方も校長の立場で色んな判断をしてもらわなきゃいけないんだ。できるんだ、もう。」ということを言っておるわけです。

 それから、「連携・協調・協働・リーダーシップなどの仕事の仕方が苦手である。」というふうに書いておりますが、これも大変厳しいことを書いておりますけど、今までこういうふうな仕事の仕方がなかったということだと、私は理解してます。ですから、教頭先生に言うのも「だからといって、責めてはいけない。これからこういう仕事の仕方をしていくんだ。」ということで、昨年からですね、色々「連携・協調・協働・リーダーシップ」という言葉が頻繁に学校の中で使われるようになっております。

 それから、これが非常に重要なことなんですけど、単年度行事遂行型で、先を見据えた仕事になっていない。県の予算が単年度ですから、まあそうなりがちですけど、「誠之館はそういう学校じゃいけない。3年先をいつも見据えようよ。そして、『学校がこういうことを考えているから、逆に県はこういうふうに支援して欲しい。』というぐらいのことが言える学校になろう。」ということでですね。単年度行事遂行型から、少し先を見据えた仕事がきちんとできる学校に変わっていこうということで、昨年から取り組んでいるわけです。

 それから、この「知の共有化」ということを書いてありますけど、これは非常に私は学校の中で問題だというふうに思っています。それは何か?と言いますと、先生方の机の上にはですね、ファイルがいっぱい積んであります。向かい側の先生の顔が見えないぐらいにファイルが積んであるわけです。そこには、先生方のノウハウがいっぱい詰まってる。それが、転勤があったらそのファイルをゴソッと持って行かれてですね、学校には何も残らない。それをずっと学校は繰り返してきたというふうに私は思ったわけです。

 で、「これはいけない。何とかしなきゃいかん。」ということで、実は今、先ほど校内LANでですね、「知の共有化を進めていく。」ということを大きな目標の1つに掲げたわけでございます。今、校内LANの中で「文書管理」というフォルダを作りましてですね、英語から色んな教科毎、あるいは分掌毎、学年毎とかですね、全部そこにファイルするようにしてるんです。そして、誰もが見れる。みんな共有化できるという形にしているわけです。この「共有化」というのがですね、学校は遅れてる。「自分だけのもの。」例えば、研修に行って帰っても、自分が勉強しただけだ。その人が偉くなっただけなんです。今までは。

 私の所はですね、今は、帰って来たら必ず勉強会をやります。みんなが共有化するということです。みんなで共有していくということを進めていってるわけです。昨日も実は3人まとめて共有化をする勉強会をしたわけです。目標管理の勉強に行っていただきました。色んな勉強に行っていただいた先生の発表を聞いて、そしてみんなで共有していくということを必ずやるんだというふうに今、やっているわけです。ですから、みんなで共有化してレベルを上げていくこと。「みんなが同じものを学んだと同じようにしていこう。1人だけが学ぶんじゃないんだ。」ということを進めておるわけです。

 まあ、昨年度から、色んなことを取り組んでまいりました。まず、生徒集団にはビジョンを打ち出しました。昨年の4月の第3週目に生徒朝礼がありまして、そこで「美しい誠之館、輝く誠之館というのを作ろうじゃないか。皆さん方に提案したい。校長1人じゃできないんだ。生徒みんな、教職員みんなでこれを作ろうじゃないか。」ということを提案しました。で、「美しい」というのは、「美しい心、美しい友情、美しい挨拶、美しい身だしなみ、美しい学舎」色んな意味があります。そして「輝く」というのは、「みんなの顔がイキイキ輝いてる。」あるいは「学業で輝こう。」、あるいは「クラブやスポーツで輝こう。」、あるいは「学校全体が輝こう。」ということ。実は、再来年が本校150周年の周年行事を迎えますが、「再来年までには作り上げようじゃないか。」ということで今、全員で取り組んでいます。

 まあ、そういうところから変革をスタートさせました。そして、「目標達成集団になろう。先生方が能力をフルに発揮する集団になろう。」ということを、最初に打ち出しました。そして、「成熟集団になるんだ。生徒も成熟集団。教職員集団も成熟集団にならなきゃいけないんだ。」そのためには、成熟集団というのは4つ条件があるんだと。1つは、「自立度が高い」ということ。生徒も「あれやっちゃいかん、これやっちゃいかん。」と言われなきゃできないような生徒の集団じゃいけないんだということですね。だから、「管理監督されなきゃいけないような集団じゃないけないんだ。」ということを言いました。

 それから、もう1つは「目標を持った組織」が成熟度が高いんです。目標を持って進んでるという集団にならなきゃいけない。生徒も同じです。

 それから、もう1つは、「自己変革力」、自分を成長させようという意欲のある集団です。

 それから、最後になりますけど、「成長意欲がある。」ということですね。成長意欲があるということ。というふうなことを打ち出していきました。

 そして、「仕事のやり方を変えよう。」と「3年先を見据えたプランを作ろう。」ということで、全教職員でプランを作り上げていきます。で、3年先の目標は2つあります。1つは、「学力向上というのは、学校として当たり前のことだから、学力向上を具体的な数値目標を持って実現していこう。」ということ。それからもう1つは、「学校の校風をもう1回作ることだ。学校の校風を作るということは、生徒の心を作ることだ。」ということをです。今、大きな目標を2つ掲げておりまして、そして、それに関わる分掌がそれぞれ教頭の下にあるという形で、それぞれがまた、目標を持ってやっているわけです。

 昨年、着任して、生徒指導を見ても、モグラ叩きのようです。発生したらそれを潰していくということです。まあ、これは当然なんですが、こういうことを、「じゃあ3年先も同じ事をやってるのか?」というふうに訊いたんです。「3年先はこういうことをしなくても良い学校にしなきゃいけないんじゃないんか?」、「そのためには、生徒の心をどうやって作っていくか?」ということを言いました。先ほどの成熟集団の要件なんですけど、「主体性をどう持たせることか?」ということで、生徒会を中心にして、色々やらしてます。そうすると、ずいぶん成熟してきました。「やらせばできる。」ということを感じました。やはり先を見据えた目標を持って、校風を作るのも一緒なんだと。毎日毎日、モグラ叩きで発生する問題を潰していたんでは、毎年同じ事をやらなきゃいけない。「それじゃあ、仕事の達成感なんか何も無いじゃないか。」ということを言ってきました。

 そういうふうなことで、色々取り組んでいるわけですが、大事な考えの中に、「なぜ人材の能力アップが必要か?」ということがあります。例えば企業で考えてみますと、企業というのは、し烈な競争にあるわけですね。自動車業界もし烈な競争なんです。私もエリアの責任をしていた時には、不整脈になるような、毎月毎月でした。月末になると不整脈が起きるようなことも味わいました。

 まあ、そういうふうなし烈な競争をやってるわけですけど、「じゃあ、なんの競争をやってるのかな?」と、もっと突き詰めていきますと、私は、社員のレベルアップの競争をやってるんだろうというふうに思ってるわけです。それはどういうことかと言いますと、社員の1人1人が持ってる力の総和、足し算したものですね。「総和が会社の力である。」ということなんですね。それ以上のものは出て来ないと。ですから、「良い商品作りたい。」「良いサービスを出したい。」と思っても、社員のレベルがそこまでいってないと、良い商品も良いサービスも出て来ないわけですね。だから、「1人1人が力をどう高めていくのか?ということが大事なんだ。」ということが、私は身にしみてこの33年間で感じてきたわけです。

 そして私は、京都で社長の時に何をやったかと言いますと、人材育成を一生懸命やりました。社長の仕事の、私は7割は人材育成だというふうに感じたわけです。社員の育成、人材の能力を高めていくということが、企業間競争に勝っていく大きな力なんだということなんですね。

 私は学校の世界に入りまして、「あ、同じなんじゃないのかなあ。」と感じました。やっぱり、我々、教職員集団がいかにレベルを上げていくか?能力を高めていくか?ということで、それを足し算したものが学校の力ですから、最初に私が言いましたように、「学校は目標を達成するチームである。」とするならば、目標を達成しようと思ったら、より高い目標へ行こうと思ったら、やはりそこにいるメンバーが力を上げていかないとその目標には行かないということなんです。これは、まあごく自然であり、ごく当たり前のことなんですけど、そういうことが大事なんだということなんです。

 実は、企業では色んな能力が要求されます。T能力とか、C能力とか、H能力とかですね、H能力というのは「ヒューマンスキル」といいます。C能力というのは「コンセプシャルスキル」といいまして、「概念構成力」という企画力だとか、色んなものがに入るわけです。T能力というのは「テクニカルスキル」といいまして、通常の仕事をこなしていく力です。ですから、そういうものに加えてC能力とかH能力とかですね、色んなものが要求される。あるいは、プレゼンテーション能力とか、あるいはインストラクション能力とか、あるいはコミュニケーション能力とかですね、あるいはリーダーシップだとか、あるいは、もっと言えば人を動かすことができる、「やろうよ、頑張ろうよ。」と言える、そういう能力とか、そういうふうな色んな能力が必要とされます。

山代猛博校長: 話は変わりますが、私は学校というのは、今、学校で教育をやっていますが、その目的は何なのか?というふうに考えてみました。小学校、中学校、高等学校。で、私は、「高等学校というのは立派な高校生を育てるためにあるのかな?中学校というのは、立派な中学生を育てるためにあるのかな?」というふうに自問してみたわけです。「そうじゃないんじゃないんか。」と、「ゴールは社会人である。社会に貢献できる立派な社会人。社会に貢献できる立派な社会人を養成するために、高等学校があり、中学校があり、小学校があるんじゃないか。」というふうに今は、自分の中で考えを固めつつあります。そうなんじゃないんか?と。

 だから、ゴール、先を見据えて今何をするか?という、先ほどの考えなんです。「先を見据えて今何をするか?高等学校では何をするか?中学校では何をするか?」立派な社会人、社会に貢献できる人材、これを送り出さなきゃいけないというのが、やっぱり教育なんだろうというふうに、私は考えているわけです。

 今、本校では「一専多能」という言葉が流行しております。「1つの専門性と、多様な能力」という意味なんですが、そこに書いてありますけど、「『一専多能』ということ」というように書いてますが、高等学校、まあ中学校もそうですけど、数学とか英語とか、みなさん専門性をお持ちです。で、私は、「1つの専門性だけでは足りない。」というふうに今、先生方に言っております。「多様な能力で1つの専門性を支えていくことが大事なんだ。」ということを言っております。で、「一専多能にならなきゃいけない。」と。

 で、それはどういうことかと言いうと、先生方に「皆さん方は、本屋さんに行ったら、たぶん、教育コーナーに必ず行くでしょう。そこまでは当たり前。我々も今まではビジネスのコーナーに行っていました。だけど、本屋に行って教育コーナーでそのまま帰るんじゃなくて、ちょっと隣のコーナーを覗いてみるという、そこが必要なんじゃないんか。」ということを、昨日も話したのですがあ、そうすると、何があるかと言いますと、色んなことがあります。先生方に、私は今、「持っておったら非常に、もっともっと素晴らしい集団、学校になるだろうな。」と思われる色んなものがあります。我々は、民間では、例えば「人をやる気にさせるにはどうしたら良いか?」とか、「人が本当に動機付けられる。やる気にさせられるのはどうしたらできるんだろうか?」というようなことを一生懸命勉強してきました。あるいは、「ほめ方、叱り方」叱り方のロールプレイングまでやってきました。そういうことが、色々あるんです。で、そういうことを知っていたら、もっともっと生徒との場面で使える。そういうものが世の中にはたくさんあるわけです。そういうものが、もっと多様な能力を身につけていくと、もっともっと高いレベルの指導というか、「高いレベルのものが必ずできるよ。」ということを言っているわけです。

 実は8月でしたか、3年生の進路の検討会議をやりました。400名の検討会議を1日10時間かけて、3日ほどかけて1人1人をやったのですが、最後に私はコメントでこんなことを言いました。「この頃の高校生は、やっぱりものすごく良く考えてる。自分の進路について真剣に考えてる。世の中の情報を十分分かった上で自分の進路を考えてる。」で、「これからは、専門性を身につけなきゃいけない。」ということが、彼等にはよく分かってるわけです。今の世の中の色んな状況、今のような景気の悪さなど色んなものを見て、「これから自分が社会に出て生きていくためには、もっともっと専門性を身につけなきゃいけない。」ということを、進路先を見て私は感じとりました。

 で、「先生方は、『これは、いや、これはまあこんなもんですよ。今までもこうでした。』というふうに思えるかも分からないけど、私にはそう見える。逆に言えば、先生方は、生徒よりも先に、もっともっと好感度の高く、多方面のアンテナを広げておかないと、生徒の方が良く考えてるよ。」ということを、実は言ったわけです。「高感度な多方面のアンテナを持とう。」ということが、今、実は学校の中で、これもちょっとした言葉になっています。

 実は、先程ご紹介がありましたように、まず先生と面談をします。で、100名の面談を、全員とやりますから、学校にいる人みんなやりますから、1時間かけます。そうすると、1ヶ月半くらいかかるんですね。先生の空いとる時間、しかも、2時間連続して空いてる所をやらないと、先生方がイライラして次の授業を気にしてはいけないので、2時間空いてる所を探しながらですね、面談を進めます。で、1時間最低やるんですけど、多くの先生方が「勉強する時間が欲しい。」ということを言われます。

 というのはどういうことかと言いますと、例えば数学の先生はですね、今、実は本校も、まあ「誠之館が変わっていく」という期待感からか、非常に生徒のレベルの高いのが入ってきていて、生徒が数学の教室に質問に来るというわけです。そうすると、生徒の前で解かなきゃいけないと。で、解かなきゃ認めてもらえない。とにかく、ものすごい緊張感が走るということを、素直に先生が私に言われるんです。で、「もっともっと勉強をしなきゃいかん。大学入試の問題をもっと勉強する時間が欲しい。」と。で、「時間は、しかし、生み出さなきゃ、しょうがないぞ。」という話をするわけですけど、そういう緊張感が今、あるわけです。「勉強しよう。」という、今のことは、逆に言えば、それは生徒に追っかけられてると。で、「それじゃダメなんだ。我々は生徒に『さあ、いらっしゃい。』と、そういう姿勢でおらなきゃダメだ。」ということを言っています。「『ようこそ、ようこそ。』という、『ようこそ誠之館へ。』じゃダメなんだ。『さあ、いらっしゃい誠之館へ。』と、『どんな生徒でもいらっしゃい。』と言える学校にしよう。」ということを、実は言っているわけです。そして、「必ず先生は、生徒よりも先に行かなきゃいけない。」ということなのです。

 実は民間で、私共、1つの教育の理念を持っておりまして、それは何かと言いますと、「共に育つ」という“共育”を使っておりました。キョウイクという字は「教え育てる」じゃなくて「共に育つ」という“共育”を使っておりました。それは何かと言いますと、新入社員が入ってきて、新入社員を教育しとけば、じゃあ、新入社員は育つか?と言うと、決して育たない。まず社長から勉強しなきゃいけない。「今年の新入社員は、こんなふうな考え方の持ち主で、こんなふうな環境で育って入ってるから、どういうふうに育てたらいいだろうか?ということをまず社長が勉強しなきゃいけない。そして、次には役員、部長、課長というふうに順番に上から勉強していかなきゃいかん。」ということ言っていました。そして「共に育つんだ。まず教える側が成長しなきゃダメだ。」ということをずっと1つの理念としてやってきました。

 で、逆に言えばもう1つは、「育つまで育てよう。」ということをもう1つは理念にしていたわけです。まあ、そういうふうなことをですね、考えの中に入れてやってきたわけでございます。

 これも先程ご紹介がありましたが、校長室の外には、実は筆で書いた言葉をいっぱい並べています。最初私は「生徒がどんな反応をするかな?」というふうに、興味津々だったのですが、ドンドン無くなっていくんです。例えば「自己満足するな、常に高きを目指せ。」って書いて、「校長 山代」と書いて置いておるんですけど、あるいは「問題に当たったら逃げるな。人生は果敢なる挑戦の連続である。」とかですね、そんなことをずっといっぱい書いてありましてですね、炭黒々と書いて学校印を押してですね、置いておきますと、「あ、新しいのが出たよ。」と言いながら生徒が持って帰ってるのがよく分かるのですけど、「生徒は言葉を欲しがってる。」というふうに、私は感じました。

 そして、一番売れた言葉がですね、今のところ一番売れたのが「自己満足するな。常に高きを目指せ。」という言葉がですね、一番売れました。で、生徒が、もう、今900枚以上出てると思うのですけど、保護者の人がそれを見て「持って帰って欲しい。」というふうな、で、訊いてみたら「冷蔵庫のドアに貼ってある。」とかですね、そんな話を聞いていますが、そういうことでやっています。で、「自己満足をしない。常に高きを目指す。」という言葉ですね、非常に生徒、それから先生方も持って帰られます。今、この言葉が、浸透しているんじゃないかというふうに感じているわけです。

 本校の人材育成ということに関しては、どんなことをやってるかということを少しお話しをさせていただきますと、昨年、私は「目標による管理」という言葉をですね、すぐ使い始めました。で、学校の世界にもいずれ「評価」という問題が必ず入ってくるということを聞いておりました。私は「評価は評価が目的じゃない。」ということを言っているのです。「評価っていうのは手段である。」と。で、目的は何かと言うと、目標による管理の仕事のやり方をしていくんだ。「目標による管理という仕事のやり方をしていくんだ。」ということだと思うんです。そういうことで、「まずそういう仕事の仕方というのを、みんなで共通の理解、共有化しておかないと、必ず失敗する。いかん。」というふうに私は思いましたので、昨年すぐ「目標による管理」という言葉を使い始めて、「実は学校というのは、目標を達成するためのチームなんだ。」ということを言い続けてまいりました。

 まだ広島県もそういうことがスタートしてるわけじゃありませんけど、本校はいち早く先生方にA4のペーパーに教科の今年度の目標、「教科指導についての目標」、あるいは、「クラス運営についての目標」、あるいは「学年運営についての目標」、あるいは「クラブ指導に関する目標」、あるいは「校務分掌に関する目標」、あるいは「自己啓発の目標」、「こういうものを数値化できるものは数値化して、目標を設定してみて下さい。そして、そのために具体的にどんなことをやるのか?そして、学校に対する気づき、問題、要望、これも書いて下さい。」ということで、書いてもらいまして、色々面談を進めたわけでございます。昨年も面談をやりました。

 また、「校長塾」というのをやっております。校長塾というのは、教職員の研修会を持っているわけですけど、教職員というのは、本校は、技術員まで含めた教職員全員です。そこで色々「仕事のやり方をこういうふうにしていこうじゃないか。」とかですね、色んな考え方を話をしておるわけです。そういうことをやりながら、「今やってることがどういうことなのか?」ということを共有化していくと、理解、納得していくというプロセスを踏んでおるわけでございます。

 そして、校内研修というのも、実は定期的にやっております。5月の連休に主任以上、管理職も含めて20人ぐらいが合宿もやりました。勿論、自費なんですけど、合宿をやって「目標と手段の体系」というのを勉強しました。KJ法というのを勉強しました。「KJ法をマスターしておけば、色んな場面でものすごく役に立つ。」ということで、勉強会を開きました。生徒指導の場面、あるいは校務分掌で色んな討議をする場面でも役に立つ。

 学校というのは、私は不思議だったんですけど、黒板があるのに、先生方が会議をする時には、黒板なんか全然使わなくて、口で言いっぱなしなんですね。誰も整理しようとしないし、何が発言されたか?というのは何も残ってない。メモも取ってない。気がついたら時間が経っていたというふうなことを本当に感じました。もっと効率よく、やっぱり早く良い知恵を出してまとめていくということをやらなきゃいけないということで、私はいつも黒板がないと不安なんです。黒板に、「ああ、今言ったことはこう。」って整理しながら黒板に書いて会議を進めていくのが今まで習性だったもんですから、不思議なんです。普段黒板ばっかり使っておられるから、「もういいわ。」という感じなのかも分かりませんが、そんなふうなことも感じました。そういうことを克服するのに色んな手法がある、道具がある、やり方があるということをですね、今やっているわけです。

 そして、共有化をしていく。今年度、実は昨年度の取り組んだことを整理して、そして今年度の大きな課題を10項目ほど出しました。先生方をヒアリングした後、必ず私は先生方から出た気づき、問題点を、必ず私が全部整理して、そして先生方にフィードバックしていきます。「先生方からこんなに色んな課題が提案された。提起された。学校というのは、いつも新しい課題に挑戦するんだ。1年間の行事を決めたらそれをただやるだけじゃないんだ。途中でもいくらでも課題が出てくるはずだ。それをいつも課題として折り込んで、それを解決していくんだ。」ということを言いたいわけです。

 そういうことをやりながら、今進めておるわけですが、そういう中で、今年度の大きな課題を10ほど出しまして、そのトップに挙げましたのが、実は「学校の中で人材育成をやっていこう。能力アップをやっていこう。そういう体制を学校の中で作ろう。」ということをやっています。そして、1人の教頭と一緒に検討してるんですけど、検討してもう進めてるんですけど、先生方が初任から始まって、まあ管理職まで、当然経験を経る毎に経験年数が高まっていくんですけど、それに対して、じゃあその横軸にですね、一番大事なのは教科の指導力、これが柱だと。教科の指導がまず当然一番目に来なきゃいけない。でも、これはもう35歳ぐらいまでには完成しなきゃいけないんじゃないか?と、完成の域にいかなきゃいけないんじゃないか?というふうなことを思います。

 あるいは、もう1つは、「クラス運営だとか、学年運営をするということに関して、色んな能力を得るんじゃないか?」と。色んな、こういう能力を得るんじゃないかとか、ああいう能力を得るんじゃないか?というものをおいてみました。

 あるいは、もう1つは、校務分掌を進めていくという中で、校務分掌で仕事をしてるという、「分掌の中で仕事をしていく中で、こんなふうな能力を得るんじゃないんか?」というのを、ずっと整理をしながらですね、そして、マトリックスで表ができましたんですが、「じゃあ、ここの能力を作るためには、県の教育にはどれに行ったらいいだろうか?」あるいは、「民間の研修期間の教育にも行こう。」ということで、実はプランを出しまして、県で旅費を出してもらいましてですね、今、教頭に2泊3日の15万円の研修に行ってもらいまして、それからもう1人の教頭がおりますが、彼も来月行きます。それから、先生方もこれから5〜6人行ってもらうようになっておりますけど、そうやって勉強しながら、また学校に持って帰ってもらって、みんなで共有化してもらうということをですね、今進めて、「とにかく、みんなでレベルを上げていこう。必ず役に立つはずだ。」ということで、そうすると、学校の力が一気についてくるということをですね、今やってるところでございます。

 まあ、その効果が出てくるのは、当然まだもうちょっと時間はかかりますけど、今年度はそういうことをとにかくやろうということでですね、今、計画的に進めておりまして、私が校長会で東京に行きました時に、能率協会とか、産業能率大学とかに寄りまして、プログラムを持って帰りましてですね、そして検討して、そして、どういう研修を受けたら良いか?ということを選びながら、今やってるわけでございます。

 私は、誠之館高校でそういうふうに力をつけて、能力アップされた先生方が、やっぱり散らばって行ってですね、学校全体、教育界全体、県全体がですね、良くなっていくということが一番望ましいことだというふうに思ってるんです。で、「学校はまだまだポテンシャルがある。」と言って、昨日も言ったところなんですね。「学校というのは、まだまだポテンシャルがある。まだまだ良くなっていく。」というふうに、私は本当に信じております。

 「これから先、もっともっと楽しみがですね、学校にはある。」というふうに先生方にも言っておりますし、力をつけていこうということなんですね。そして、「生徒より先に行こう。」ということを、今言っておるわけでございます。

 最後に、キーワードを書いておりますけど、最近のキーワードということで、先ほどちょっと申しましたが、「評価というのは目的じゃないんだ。評価というのはレベルを上げていくための単なる手段なんだ。」と。評価をしてみなきゃ、自分の能力というのは見えないわけですね。後、足りない能力というのは見えないわけですね。これは学校の生徒も一緒なんですね。生徒の評価も同じ事なんですね。ですから、私は、「評価は目的じゃない。評価は手段だ。」というふうに捉えてるわけです。まあ、これはたぶん間違いのないことだと思います。「評価というのは手段である。」と。生徒に対する評価も、あれは手段なんですよね。評価するのが目的じゃない。手段だということで捉えておるわけでございます。

 それから、「学校は目標を達成するためのチーム」「変化対応」ですね、それから大事なのは、評価をしっぱなしというのが一番いかんわけですね。目標を達成するというのはどういうことかと言いますと、1人1人がみんな今度は目標を分担するわけですから、その人が目標を達成するために管理職というのは支援をする、支援をするというのがなければいけないことなんですね。目標を与えたら後は「もうやんなさい。」というんでは、これは管理職としての役割を果たさないということなんです。今度はそれを達成できるように、色んな形での支援、まあ支援というのは色んな形があると思うんですけど、それが要るということなんです。そういうことをしながら、全体の目標を達成するというのが、目標による管理の考え方なんです。

 勿論、評価というのは、自己評価をまずしなきゃいかん。私共は、学校評価というのをやっております。学校評価もですね、熱心にやっております。新聞にも出ました。公開もしました。私は、評価についても先生方に言っておるのは、「自己評価能力が大事なんだ。他者評価というのはあくまでも補足なんだ、本来は。だけど、自己評価というのはついつい甘くなってしまう。だから、他者評価もしてもらうんだ。」というふうに、「大事なのは自己評価能力だ。」と言っているわけです。

 そういう支援、あるいは話し合いをしながら、「目標をどうしたらできるか?」ということが一番大事になってくるんです。ですから、昨日も先生方に「堂々とやれば良いよ。堂々と評価というのをクリアしていけばいいじゃないか。何も心配いらないよ。」と言いました。「うちの先生は仕事の質も量も高い。心配することはない。」ということを言いました。そういうことを考えながら今進めておるところでございます。

 最後は、やっぱり何と言っても「個人の成長意欲」、私は、今、生徒の前で言います。「私もまだまだ成長しなければいけないんだ。成長に年齢制限はないんだ。」と言います。「死ぬまで成長しなければいけないんだ。」ということを言います。成長意欲が旺盛な人ほど、やっぱり成長していくということで、「ああ、自分はもうここまでだ。」とか、先ほどの自己満足、これが一番いけないことなんです。「まだまだ自分は色んな能力を付けて成長していこう。」という、ここに生きがいとか、働きがいとか、やり甲斐とか、達成感があるんだという話を昨日実はやってきたところでございます。

 まあ、長々とお話をしたんですが、ちょうど時間がまいりましたので、このぐらいにさせていただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

(拍手)