目     

はじめに ……………………………………………………………………………………… 

状況認識と対応の方向性 …………………………………………

学校教育に寄せる県民の熱い思い ………………………………………………………………

  学校及び教職員の抱える課題…………………………………………………………………

  (1)学校組織の特異性

  (2)広い視野、開かれた学校

  (3)管理職に求められるもの

  (4)教職員の抱える課題

  教職員の資質・指導力の向上 …………………………………………………………………

  (1)養成教育

  (2)採用段階

  (3)採用後の指導や研修

  (4)指導を要する教職員の存在

指導を要する教職員対策 ………………………………………… 

  (1)勤務状況を的確に把握するには………………………情報収集と実態把握 ……… 10

  (2)問題点はどこにあるのか………………………………分析と分類 ………………… 12

  (3)指導を要する教職員とは………………………………認定の基準 ………………… 15

  (4)誰が、いつ、どうやって認定するのか…………………認定の方法 ………………… 17

  (5)日常的な指導や観察とその記録を……………………記録の方法 ………………… 20

  (6)誰がどのように指導していくのか………………………指導の在り方 ……………… 22

  (7)どういった処遇が望ましいか(その1)………………  処遇の種類と方法 ………… 25

  (8)どういった処遇が望ましいか(その2)………………特に精神的疾患等への対策 28

  (9)どういった研修を行うべきか……………………………研修の在り方 ……………… 31

  (10)成果を誰がどう判断するのか……………………………問題解消と復帰 …………… 33

  (11)成果が現れない場合はどうするのか(その1)………若年退職優遇 ……………… 35

  (12)成果が現れない場合はどうするのか(その2)………分限処分と転職 …………… 38

指導を要する教職員を出さないために ………… 41

  (1)採用段階から…………………………………採用の在り方の改善 ……………… 42

  (2)条件付き採用制度を適切に運用する………条件付き評定の改善 …………………… 44

  (3)校内・校外研修の内容を見直す……………初任者や年次研修等の在り方の改善 45

  (4)勤務評定の適切な運用を図る………………勤務評定の運用見直しと在り方の検討 47

  (5)健康管理の重要性を認識する………………総合的な健康管理システムの構築 49

  (6)働きやすい職場づくり(その1)…………より良い人間関係を築くための工夫 51

  (7)働きやすい職場づくり(その2)…………職場の条件整備の推進 ………………… 53

  (8)学校の実際を知ってもらう…………………地域や家庭への情報発信と説明責任 55

  (9)みんなで学校と教職員をサポートする……地域や家庭をはじめ社会全体での支援 57

  (10)教職員一人ひとりの自覚が大切である……使命感・プロ意識のもとに自己変革 59

おわりに ……………………………………………………………………………………… 61

資 料 …………………………………………………………………………………………… 62

 

 

はじめに

 本検討委員会は、本年5月に高知県教育長から、土佐の教育改革の大きな柱である、教職員の資質・指導力の向上を図るため、望ましい教員像や意識改革、研修の在り方、指導を要する教職員への対応など人事管理の在り方について諮問を受けた。

 学校は今、多くの課題を抱えている。社会経済情勢の急激な変化の中で、子どもたちは多様化し、また、価値観も大きく変化し、我々の理解を超える現象も生じてきている。教育の在り方は、今、正に、国民的課題であり、時代に見合う大きな変革の時期に来ている。

先頃出された国の教育改革国民会議の中間報告にも、深刻な危機感のもとに今後の教育システムの改革が広範囲に述べられている。

 こういった状況の中で、各教職員はその能力の全てを傾注して、子どもたちのための教育に当たるべきであり、地域や家庭も、学校と一体となって、相互に補い合いながら、子どもたちを守り慈しんでいかなければならない。そのためには、学校や教職員が子どもたちをはじめ、保護者や地域の人々と十分な信頼関係が築かれていることが必要である。

 しかしながら、教職員の一部には、そういった信頼を得るに至ってない者が存在するという実態がある。我々はその原因分析や分類、具体的な対応策等を広く議論していく中で採用から退職に至るまで人事管理全般について意見交換した。また、保護者や職員団体の代表の方々からのご意見もお聴きし、参考とさせていただいた。こうした5回にわたる検討委員会での精力的な議論の中から、この第1次提言をまとめた次第である。

 全体を通して、メリハリのある対応を求めつつも、基本的には教職員をできる限り支援していこうという思いを盛り込むように努めた。

 また、結果として、校長の役割が今まで以上に大きくなってくる。校長に対する校内・校外のサポート体制の確立も必要である。

 この提言に対してもいろいろな見方があることは容易に想定できる。また、国でもいわゆる不適格教員をはじめ教職員の在り方について様々な取り組みがなされる見込みである。さらに、改革に当たっては時代の動きに沿って、検証と修正を繰り返していくことも必要である。これらのことから、今回の検討結果の取りまとめは中間的なものとして、第1次の提言と位置づけた。

 また、この時期に提言を行うことは、来年度の予算や人事異動に反映できるようにとの思いを持っている。対策は急務であり、主体的な実施機関である県教育委員会には早急な対応をお願いしたい。

 土佐の教育改革を実効あるものにするために、教職員の資質・指導力の向上は不可欠の要素である。この第1次提言が、教職員の資質・指導力の向上に少しでも役立つことを期待しながら、また、多くの教育関係者の方々や県民の皆様から、率直なご意見をお寄せいただくこともお願いしながら、以下の提言を行う。

1 状況認識と対応の方向性

教職員の人事管理の在り方を検討していくに当たって、まず、学校に寄せられる県民の思いや学校及び教職員の抱える課題、教職員の資質・指導力の向上についての状況認識と対応の方向性を述べる。

学校教育に寄せる県民の熱い思い

 土佐の教育改革のキーワードは、「子どもたちが主人公」である。21世紀を担う子どもたちが、健康で、伸びやかに、たくましく成長することは県民皆が願うことである。

 その子どもたちが急激な社会経済情勢の変化の中で、大きく変わりつつある。子どもたちを育んでいくには、家庭や地域の教育力も重要であるが、学校教育が第一義的に果たす役割は大きい。学校や教職員に寄せる県民の期待は、ますます大きくなっている。

 そういった期待に学校や教職員が適切に応えていくには、時には我々の想像を超える言動をとる子どもたちを十分に理解し、時代や社会の変化を見極める力や課題発見能力を磨き、意識改革を行いながら柔軟に対応していくことが必要である。

また、現実に学校だけでは解決のつかないケースも多くなってきている。家庭や地域と学校の連携が必要であり、同時にそれぞれが適切な役割分担を行うことも重要である。

そのためには、学校が地域や保護者に開かれていることが必要である。学校からの適切な情報発信と説明責任の履行が大切であり、それを行うことによって学校に対する地域や家庭の理解と協力が初めて得られるものである。

 一方で、子どもたちや保護者の価値観は多様化し、学校に対する要求も複雑かつエスカレートしている実態もあり、そのため、学校や教職員が過度の負担を強いられ、精神的にも多くのストレスを抱え込んでいるというケースも見受けられる。

 親の無責任や社会の無関心は、全て学校や教職員の責任論に転嫁されたり、それに形式的な学校の守備範囲論も加わると三者が互いに責任を他者に求めるという、子どもたち不在の議論となる状況を生む危険性がある。

 学校、地域及び家庭が、子どもたちのためにどうあるべきかという原点に立って、本音で率直な意見交換をする中で、より良い途を探っていくことが大切であると考える。

学校、教職員その他教育行政に関わる全ての者は、県民の思いをしっかりと受け止め、その期待に応えるよう全力を挙げて取り組んでいく責務がある。

 

 

 

学校及び教職員の抱える課題

(1)学校組織の特異性

 学校の組織は、一般的に、校長・教頭以外は勤続年数に関わらず、全て同列であるという、いわゆる鍋蓋組織であると言われる。さらに、小学校では、学級王国が存在し、極端な場合は管理職といえども容易に口を出せないという声もある。

 部制や主任制といった位置づけもあるが、その職制上の機能は十分発揮されているとは言えない実態もあり、学校以外の組織と比べると非常に特異なものとなっている。

そのことが、上下関係がないとか、先輩後輩という関係が機能しにくいといった状況を生みだしており、学校という職場における人間関係の希薄さの一因となっているとの指摘もあるほか、問題点として、情報の流れの悪さや学校全体としての行動の取りにくさ、管理職のリーダーシップ面での課題などが挙げられている。

 もっとも、現に比較的機能している学校もあり、教職員の意識改革に負う部分も大きいと言える。

社会が変化し、学校もそれに応じた変革を求められている。タイミングを失しないように積極的に変わろうとする姿勢が必要である。

 学校が組織としての機能を高めることは、今後実現していくべき課題であると考える。

 また、校長に権限が集中しすぎているとの指摘もある。最終責任者である校長の職責は重いが、これからの学校経営を考える場合には、教頭などに可能な権限は委譲し身軽になることも必要ではないかと思われる。そのことが、教頭の自覚を促すことにもつながり、校長と教頭の連携にも一層資するのではないかと考えられ、今後検討していくことが望ましい。

(2)広い視野、開かれた学校

 学校や教職員が日常的に接触するのは子どもたちと保護者だけであり、外部の様々な情報が入りにくいという特徴がある。また、保護者の中には、子どもを預けていることから学校に思い切ったことが言えないとの声もある。

 そういう中で、学校独特の校内での生活様式が固定化し、そのことが進取の取り組みや意識改革を阻んでいる面も否定できない。例えば、過去の経験に基づいた指導が通用しなくなっているにもかかわらず、マニュアル化された対応の枠を超える応用ができないという指摘もある。また、学校の常識と社会の常識の乖離を憂慮する声も多い。

 これからの時代に適切に対応できる学校となるためには、その閉鎖性を払拭し、開かれた学校になるとともに、多様化する価値観に対応できるような教職員自体の意識改革や時代のニーズを見極める幅広い視野の養成が必要である。

また、学校は説明責任を果たし、地域や保護者などの理解を得るよう努力しなければならない。

これらのことを進める手だてとして、学校としての情報収集システムづくりや学校評価制の導入、教職員の評価方法の見直しなども検討することが望ましい。

(3)管理職に求められるもの

 これからの管理職には、学校経営の中心として、人間的魅力を持ったリーダー性と教育に関するビジョンや強い使命感、豊富な経験に裏打ちされた見識を有することが求められる。

 また、同時に、時代を見る先見性や課題発見能力、勇気を持って変革に挑む積極性や的確な危機管理のできる行動力、対外的な調整力も必要である。

 さらに職員管理の面では、教職員の意欲を上手に引き出せる指導力や包容力、健康管理を含め、きめ細かな教職員の日常の把握と気配りなどができる能力も重要な管理職の要素である。

 以上のような視点での管理職の評価や登用がなされることが重要である。

特に教頭については、校長と一枚岩の意識で連携し、校長の「補佐」と言うよりも、むしろ「代理」という程の積極的な意識を持って学校経営に関わっていくことが望まれる。

 なお、本年度から、国の中央教育審議会の答申を受けて、教育管理職に民間人を登用できる制度が発足した。

 これは、子どもたちの実態や地域の実情に応じた特色ある学校づくりの展開、学校の活性化や教職員の意識改革につながる新しい風を起こすものとして期待できる。

民間の経営感覚を学校で発揮すること、あるいは民間で培った知識や技術を特色ある学校づくりに活かすことは意義があり、変化の著しい時代には一つの試みとして評価できる。今後、どういった学校にどういった人材を登用していくか検討するに際しては、学校の特色とそれに対する適材の見極めを十分行い、地域や保護者の理解も得ながら慎重に進めていくことが大切である。

 また、学校側の教職員の体制や意識、登用時の勤務条件の整備などにも留意していく必要がある。

(4)教職員の抱える課題

 既に述べたように、社会経済情勢の急激な変化の中で、子どもたちや保護者の価値観は多様化し、それに応じた適切な対応が求められる一方、学校に対する要求も複雑かつエスカレートしており、学校や教職員は過度の負担を強いられ、精神的にも多くのストレスを抱え込んでいるというケースも見受けられる。そういう意味でも、教育公務員の職務は非常に難しい仕事であるといえる。

 学校組織の特異性から、教職員の人間関係の希薄さが見られ、問題が生じた際にも一人で抱え込み、問題をさらに悪化させているといった状況も生じている。

 また、学校の閉鎖的な体質や時間的な余裕がないという状況のもと、社会との交流が乏しいことで、時代の把握が難しく、その変化に教職員がついていけてないのではないかとの声もある。

 特に長年の経験に基づくマニュアル化された対応に安住し、時代や子どもたちの変化に応じた柔軟な対応ができてないケースがあるとの指摘もある。

 もとより、こうした課題とは無縁の学校や多くの教職員が存在する。地域や保護者からも高い評価を得て、日々の教育活動に努力している姿も多く見受けられる。

 しかしながら、一方で、教育公務員としての使命感やプロ意識に疑問符をつけざるを得ない教職員がいるのも事実である。

 子どもたちは質の高い教育を受ける権利があり、子どもたちの人間形成に重要な時期に教職員の与える影響は大きいものがある。しかし、子どもたちの側からは教職員を選ぶことはできない。教職員の資質・指導力の向上は、学校、教職員、その他の教育行政関係者全ての責務である。

教職員の資質・指導力の向上

教職員の資質・指導力の向上は、「養成教育」、「採用段階」、「採用後の指導や研修」という3段階で考えていく必要がある。

 また、特に指導を要する教職員には体系的な対策を講じなければならないと考える。

(1)養成教育

 養成教育では、それぞれ専門性を高める必要があるのは当然であるが、それに加えて、今後は、子どもたちを慈しむ心の醸成や様々な社会体験を積むこと、時代の変化を見つめ課題を発見できる目を養うことや、受け身ではなく積極的に物事を切り開いていこうとする姿勢を身につけることなどが、求められてくると考えられる。

そのため、教育委員会その他の関係者は、まず、経済団体、企業、福祉団体やボランティア団体など変化する社会の最前線と接触する機会を多く持って、変化の実態を十分理解することが大切である。そのうえで、大学等の養成機関と緊密に連携を取り、教育公務員として望ましい資質を示し、ともに養成していくといった心構えで臨むことが必要である。

 また、大学等養成機関側には、積極的に学校現場の現状や課題の把握に努めるとともに、教職に関する科目等の思い切った見直しを行い、教育に携わるという使命感や豊かな人間性が原点であることを意識付けるよう期待したい。

(2)採用段階

 採用は、より人物重視の方向に向かうことが必要である。教職員の人間性が子どもたちに与える影響は非常に大きいものがある。

 筆記審査は必要なレベルを満たしているかどうかの判断材料に止め、豊かな人間性や社会性を見抜くための工夫をすることが必要である。

また、多様な人材を得るという観点では、民間等の社会経験を持つ者について、どう評価するかを今後検討することが望ましい。

 採用後の状況を追跡調査することによって、採用審査の在り方に検証を加えていくことも重要である。

 

(3)採用後の指導や研修

 指導や研修を進めていく場合、受け身であるものと目的意識を持って臨むものとでは大きな違いが生じる。そのため、本人の意欲を喚起する工夫が大切である。

 指導では、本人と話し合って目標を立てさせ、それに向かって努力をさせる、あるいは研修ではメニュー化して選択制の研修としたり、自己啓発研修の機会を増やすことなどについて検討すべきである。

また、指導や研修は本来、職場内(校内)で行うのが基本である。管理職の果たすべき役割が重大であることはもちろんであるが、指導担当となったり、目標となるべき中堅職員の役割も相当大きなウエイトを占める。中堅職員の関与については、現状では学校組織の特異性もあって必ずしも十分機能してない面もあり、今後の改善が望まれる。

指導や研修は計画的かつ体系的であることが必要であり、適切な検証により柔軟に改善を加えていくことも大切である。

(4)指導を要する教職員の存在

 教職員が様々な課題を抱えていることは既に述べたが、そういった要因で特に指導を要する状況となっている教職員や、本来的な資質や適格性に疑問が投げかけられている教職員など子どもたちにとって好ましくない事態を生じさせているケースがある。

その態様や課題の程度も様々であるが、日々子どもたちと接して教育に従事しているという実態を見るとき、早急な対応が求められる。

 子どもたちにとってどうかという立場と教職員を育成するという立場では、往々にしていわゆる利害が相反する。すなわち、子どもたちにとって好ましくない教職員は、学校から直ちに離すべきという考え方が当然出てくるし、一方で、何らかの要因でそういう事態に陥ったが、指導や適切な措置で課題が解消される可能性のある者を一律に分限処分の対象とするなどの対応では、徒に教職員の不安感をあおるだけではないかという議論もある。

 「子どもたちが主人公」であることを念頭に置きながら、何らかの指導を要する教職員について、その分析と分類を行い、その結果にそれぞれ対応した措置を講じていくことが適切である。

 そのためには、指導を要する教職員に対して総合的、体系的な対策を樹立し、直ちに子どもたちから離すべき者とそうでない者を分類し、指導や研修を行っていくとしたものについては、それぞれどういった対応が最もふさわしいのかを当てはめ、措置していくというシステムづくりが必要である。

その際には、子どもたちへの影響を考慮するとともに、地域や保護者の理解を得るように努めることが大切である。

 また、併せて教職員全体に広く支持されるものにするという視点も必要である。

 

 

 

 

 

2 指導を要する教職員対策

先に述べたように、その在り方に疑問を投げかけられる教職員が確かに存在する。

そういった教職員を本県では「指導を要する教職員」と呼ぶことが適切である。

他には、「指導力不足教員」あるいは「不適格教員」などの呼称もあるが、

 ・教員に限らず、そのほかの職員にも問題とされる者が存在すること、

 ・指導力不足とすると範囲が限定されるイメージがあること、

 ・不適格となってしまう前段階での対策が大切であること、

 ・そして何よりも子どもたちにとっては、程度の軽重に関わらず、何らかの問題点を抱 える教職員の存在が皆無になっていくことこそが最も求められるものであること

等から広い範囲で対策を講じていく必要があり、それには「指導を要する教職員」という呼称がふさわしい。

2 トータルの人事管理として総合対策が必要である。

指導を要する教職員対策の本来の眼目は、そういった教職員を作らないという「予防策」にあると言える。

 そのため、現に何らかの問題点を持った教職員に対する方策を検討する中で、その原因や契機、対策の成果などの分析を通じ、予防策を確立していくことが必要である。

 その意味では、採用前の養成教育を含め、採用、条件付き採用期間、初任者研修その他の学校内外の各種研修などによる教職員の資質・指導力の向上を図ることが重要である。さらに勤務評定、健康管理や職場の人間関係をはじめ働きやすい職場づくりなどから、退職制度に至るまでのトータルの人事管理を検討する必要がある。

そういう考え方に立って、まず、指導を要する教職員対策を述べた後、指導を要する教職員を出さないための予防策についても言及することにした。

3 指導を要する教職員対策として、次の各項目について検討を行った。

(1)勤務状況を的確に把握するには…………………………情報収集と実態把握

(2)問題点はどこにあるのか…………………………………分析と分類

(3)指導を要する教職員とは…………………………………認定の基準

(4)誰が、いつ、どうやって認定するのか…………………認定の方法

(5)日常的な指導や観察とその記録を………………………記録の方法

(6)誰がどのように指導していくのか………………………指導の在り方

(7)どういった処遇が望ましいか(その1)………………処遇の種類と方法

(8)どういった処遇が望ましいか(その2)………………特に精神的疾患等への対策

(9)どういった研修を行うべきか……………………………研修の在り方

10)成果を誰がどう判断するのか……………………………問題解消と復帰

11)成果が現れない場合はどうするのか(その1)………若年退職優遇

12)成果が現れない場合はどうするのか(その2)………分限処分と転職

以下、順次考え方を述べる。

情報収集と実態把握

 勤務状況を的確に把握することが、全ての出発点であり、最も重要なポイントである。

 基本的な考え方

 

勤務状況把握を難しくする、いわゆる学級王国、鍋蓋的組織などといった学校特有の問題点があり、そういったことを踏まえた対応が必要である。

 また、勤務評価を行う管理職の評価能力の一層の向上が急務であると考える。

 問題点の早期発見が肝要であり、そのための情報収集能力やきめ細かな観察能力の向上を図るべきである。

職階制がなく、中間管理職の存在しない学校では管理職へ情報が集まりにくいため、他に比べて相当の情報収集努力を行うとともに、有効な情報収集のシステムづくりを検討する必要がある。教頭のほか、学年主任等中堅職員の協力を得る必要もある。

 保護者の中には、「子どもが人質」といった意識を持ち、学校に対して意見を言うことに躊躇する者もいるので、そういった者が自由に意見を言えるようなシステムづくりも重要である。

 苦情処理から気づく、それを重要視するという民間の方式に学ぶことも考慮すべきである。

 

 対応策

 

1 風通しの良い職場づくり

  学校の教室は密室であり周りが気づきにくい、あるいは学校は横並び組織で情報が流 れにくい、また、一番多く接触しているのが子どもたちであり、直接明確な意志表示が しにくいなどの特性がある。

  そのためには、風通しの良い職場づくりに努め、そのことによって情報を得る必要が ある。

管理職は、教職員が互いに関心を持ち、何でも言い合える雰囲気づくりの重要性を今 まで以上に認識すべきである。

  職場の円滑化には、学校の中堅職員の果たすべき役割も大きい。そういった層の職員 が今まで十分にその役目を果たしてきたか検証してみる必要がある。

また、教職員のプライベートな部分の把握は、日頃の管理職と個々の職員との人間関 係づくりが如何にできているかにかかっている。同時に、学校内外から得られる些細な 情報も決しておろそかにしない姿勢が必要である。

2 管理職の実態把握能力の向上

教職員個々が発する細かなサインを見逃さず、十分な観察を通じて具体的事実の積み 上げを行ったうえで、総合的に判断していくことが必要である。

  子どもたちを理解しようとする思いと同様の思いを持って教職員を観察し、それを踏 まえて指導を加えていくことは、管理職の重要な職務である。

そのためには、校長・教頭の連携も欠かせないと考える。校長と教職員をつなぐ立場 にある教頭も重要な情報収集者たるべきである。

また、定期的に教職員と直接面接を行うことや教職員の自己評価・自己申告を受ける ことも有効であると考えられ、こういったシステムの構築も検討すべきである。むろん このことは、体系的なシステムという形でなくとも、管理職と教職員個々との人間関係 のうえで自在に実施されて良い事柄である。その場合、常に、教職員を育む視点で臨む ことが何よりも重要である。

併せて、管理職研修の内容にも工夫を加え、風通しの良い職場づくりや教職員把握能 力の向上、さらに教職員の育成に向けたテーマの設定も必要である。

3 学校外部への情報発信とセットで情報収集

  民間企業では、苦情処理こそ顧客の本音(ニーズ)の聴けるチャンスととらえ、苦情 を大切に位置づけている。

  例えば、開かれた学校づくりの場や地域とのいろいろな関わりの機会を活用して、積 極的に情報収集に努めるとともに、苦情に謙虚に耳を傾ける姿勢が重要である。

また、活きた情報を収集するためには、日頃から学校の活きた情報の発信にも心がけ るべきである。特に、悪い情報は伏せ込まず、学校の説明責任もきちんと果たしていく 必要がある。

 

 

 

1 県教育委員会や市町村教育委員会の関わり

学校に直接届きにくい情報が、県や市町村に何らかの形で入ってくることも容易に想 定される。県教育委員会や市町村教育委員会は、学校との意思疎通を密にし、共に教職 員を育成する視点に立って連携していくことが大切である。

2 国の動向

国においては、教職員に対する保護者等からの情報を広く収集するための仕組みを検 討するという動きがある。そういったことにも十分注意を払い、本県としても適切に対 応していくことが必要である。

分析と分類

個々のケースについて十分な分析を行い、共通部分で分類していくことによって初めて体系的な処遇方策が可能となる。

 基本的な考え方

 

 個々の教職員の抱える問題点を早期に発見することとともに、それらをきちんと分析・分類して指導を行っていくことが、同程度に重要である。

分析に当たっては、医師等専門家の意見を十分に聴きながら、客観的な事実の積み重ねをもとに1ケース毎に慎重に行うべきである。

 特に原因については、複合している場合や潜在化しているものも多いと考えられ、多角的な視点での洗い出しが必要である。そのもとになるものが多くの情報であることは言うまでもない。

特徴的な要因を分類するに当たっては、多方面からのアプローチ方法があると思われるが、大別すると以下の3分類とすることが適当と考える。

 @勤務意欲や指導力に関するもの

A資質や適格性に関するもの

B疾患等に関するもの

 指導を要する教職員としての認定や指導、研修等の具体的な処遇方針を立てるに当たっては、分析結果を処遇に活かすことが基本となる。すなわち、こういったケースでは、こういう処遇、対策が有効といった客観的・有機的な関連づけを今後高めていく必要がある。

 そのためには、大分類を細分化し、細分化された課題について、それぞれの程度をクロスさせ、パターン化することが望ましい。

その際には、課題の複合の実態を見極め、特に精神的疾患の要因が複合しているかどうかの判断が重要である。

 特に疾患等については、専門家の意見のもとに人権にも十分配慮した対応が必要である。

 

 対応策

 

1 大分類の考え方

以下のとおりの考え方とすることが、当面は適当であると考えられる。

 @勤務意欲や指導力に関するもの

専門職としての基本である指導力や、児童生徒理解力、事務能力といったものに加え 勤務意欲は、管理職等による指導や研修、あるいは本人の自覚の向上により克服できる のではないかという考え方である。

A資質や適格性に関するもの

  職場での人間関係や服装・言葉遣い、私生活の乱れ、組織の一員としての自覚の欠如 などは、その者が本来持っている資質に負うところが大きく、研修や通常の校内指導で は改善がなかなか難しいという考え方である。

B疾患等に関するもの

上記の二つの分類を逸脱し、または性格を異にするので、別の視点からの処遇が必要 であるという考え方である。

2 分類間の複合

まず、大分類間でも要因が複合するケースが考えられるが、これについては、主たる もので整理することが適切である。

次に細分類間での要因の複合については、それぞれの課題の程度を見極め、重いもの から順番に処遇を検討していくことになろうが、複合の要素を常に考慮しながら臨むと ともに、潜在化している要因、その中でも精神的な疾患による可能性のあるものについ ては、細心の配慮と慎重な取り扱いが求められる。

細分類とその程度のクロスによるパターン化

分析結果と処遇の客観的・有機的な関連づけのため、必要である細分類と課題の程度 のクロスによるパターン化については、一定の目安を作成して公表するとともに、常に それらに検証を加え、より適切なものとなるよう改善を続けていくことが大切である。

このパターン化された目安が、認定する際の一つの資料となるもので、認定基準の基 礎を構成するものとすることが適切である。

4 検証を通じた精度の向上

  当面は、これまでの事例をもとに分析・分類をせざるを得ないが、今後は幅広い情報 収集のうえで、採用時点からの追跡分析、専門家からのアドバイス、処遇と成果の関連 等をデータ積み上げにより検証するとともに、管理職や教育委員会の人事担当者への専 門的研修を重点的に実施し、分析能力の向上を図ることが必要である。

 

 

 

1 疾患等の慎重な取り扱い

  精神的疾患の分析・分類については、専門家のアドバイスを受け、特に慎重に取り扱 うべきである。

  教職員への処遇自体が病状に大きな影響を与えかねないこと、精神的な要因が潜在化 している場合が多いこと、病気に対する理解不足が人権問題となる場合があること等の 課題に十分注意することが必要である。

  また、身体的な障害が生じたことで業務に何らかの支障が生じている教職員も存在す るが、一方で障害者の雇用は社会的な要請でもあり、そういったことや人権にも十分配 慮した対応が必要である。

2 県民や教職員からの支持、理解

細分類と課題の程度のクロス表は公開すべきであるが、言葉が一人歩きしたり、短絡 的な受け止めがなされたりしないよう慎重に作成する必要があるとともに、特に教職員 からの支持、理解が得られるようなものにしていくことが大切である。

このクロス表の位置づけが、認定基準の基礎を構成するものという意味からも、その 必要性がある。

3 分析・分類に関する専門スタッフ

  今後、精度を高めていくには担当者等に専門的な研修や研究を行わせ、スタッフの技 量を向上させていく必要がある。

 そのためには専門家を非常勤のスタッフ職として参画させることも検討することが望 ましい。

4 管理職の指導との関連

管理職の継続的指導が、まだなされるに至ってなかったケースについては、分析に当 たって、そのことを十分考慮したものとならなければならない。

5 教職員として求められるものの裏返し

課題の分析・分類は、望ましい教職員として求められるものの裏返しと言える。

  そのため、そういった視点からの作成を試みることも、一つのアプローチの仕方にな ると考えられる。

 

 

 

認定の基準

 認定は処分に結びつく場合もあるので、認定基準は具体性のあるものでなければならないし、公表されなければならない。

 基本的な考え方

 

 分析・分類により作成された目安となるクロス表を基礎とし、それに管理職の指導経過や本人の対応状況などを加味したもので、指導を要する教職員の認定基準を構成することが適切である。

 認定の基準は、教育というサービスを受ける側、すなわち子どもたちの立場に立って、職務に「適格かどうか」の視点で考えるべきであるが、その際、子どもたちの教育に携わるという職責の重さから、基準へは専門職、プロとしてどうかの観点も前面に出していく必要がある。

 

基準作成に当たっては、一方で、人事考課の基本である「育成」の視点からの考察も必要である。

 そういう意味で、望ましい教職員という側面から職務遂行基準、職務倫理基準として出

せないかという意見や、育成と予防の二つの観点から褒める基準も併せて作成してはどうかとの意見があったので考慮されたい。

 

 対応策

 

基礎となる分析・分類によるクロス表に加味すべき基準要素

  管理職がこれまで行ってきた指導の経過や、それへの本人の対応状況、子どもたちや 保護者の反応、その他の学校内外の関係者の意見などが一般的に考えられる。

ただ、疾患等の場合は別の要素が考えられ、特に精神的疾患については、本人の意識、 療養状況と期間、職務遂行の可能性等が挙げられる。

2 精神的疾患の考え方

  一般的な疾患等の基準に加えて、精神科医など専門家の意見を受けて考えることが必 要である。

まず、正常であるか病的なのかの判断が困難であることに加え、治療が必要な病的な 状態であるか、性格・適応性の問題が大きいかに分けて考える必要があり、さらに、同 じ疾患であっても病状による対応の違いがあること、精神的疾患が潜在化している場合 もあるなど複雑な構造になっていることにも十分注意しつつ、きめ細かな判断を行う必 要がある。

3 職責の重さからの観点

  教壇に立てるか、子どもたちに質の高い教育を提供できるかといった観点が教職員に 必要とされる特性であり、その点が認定に当たって、民間や他の公務部門より厳しい要 素とならざるを得ない。

  子どもたちへの影響評価(アセスメント)の視点を持つべきである。

  ただ、精神的疾患の一部のものについて、一時的に緩やかな見方が必要となる場合も 出てくることを考慮することが望ましい。

 

 

1 認定基準のコンセンサス

  県民や教職員の支持、理解を得ることが必要である。

  そのため、基準は公表すべきであるが、分析と分類の項で述べたように、慎重な作成 と趣旨が周知される手だてが必要である。

特に子どもたちの利益と教職員への指導継続が、一見相反するように思われるケース も想定されることから、トータル的な人事管理制度の中の認定であることを理解しても らえるよう、情報収集から復帰あるいは退職までの全体像を示すことが求められる。

2 わかりやすいものであること

特に教職員にとっては、自らの身分に関わる問題であり、具体的でわかりやすく、大 多数の者が納得できるようなものにしておくべきである。

特に、管理職の指導が十分でなかった場合や評価が分かれるもの、一部の意見が強い 場合などは慎重な取り扱いをするといったことを付記しておくことが必要である。

 

認定の方法

 過去の経過から直ちに認定すべきものと、今後、指導観察期間をおいて認定していくべきものとに分けて考える必要がある。

 基本的な考え方

 

 認定機関は任命権者である県教育委員会とすることが適切である。

ただ、専門的、多角的見地からの検討が必要なため、専門家も構成員に入れた諮問機関を設置することが望ましい。

 認定がなされた教職員は、精神的に重い負担感を伴うことになることから、適切かつ継続的な指導が十分なされていることを前提としなければならない。

従って、本来の流れとすれば、実態把握、本人との面談、指導・記録の繰り返し、改善が見られない場合に認定といった経過をたどるべきであるが、子どもたちに深刻な影響を与えており、これまで指導を繰り返したが改善のみられないケースについては、厳正かつ迅速な対応も視野に入れることが必要である。

 なお、疾患等のうち、特に精神的疾患について特に慎重な進め方が必要なことは、分析と分類の項で述べたとおりである。

 

 対応策

 

1 基準に照らして具体的事実の積み上げで判断

  認定機関である県教育委員会は、校長等の記録に基づき、指導経過と現状を諮問機関 に諮ったうえで判断していくことが適切であるが、最終的には教職員の公務員としての 身分に影響することも想定されることから、慎重かつ丁寧な検討が必要である。

  その際には、まず、子どもたちにとっての影響という基本的な視点のもとで、教職員 の育成をどこまで実現できるかの検討となる。

  具体的には、指導経過とその記録が十分であるか、基準と照らして具体的な言動が事 実としてどうか、一部の関係者の偏った意見が出てないか、認定は今が適切かどうか等 について広く検討を進めていくことが必要である。

なお、精神的疾患等が潜在化しているケースも考えられるので、諮問機関における十 分な審議に基づく答申を受けておくことが大切である。

諮問機関

 構成員は、精神科医師や弁護士などの専門家のほか、現場実態を述べる観点で市町村 教育長、学校長等が考えられる。

この機関は認定に係るものだけでなく、処遇の在り方や復帰等についても意見具申す ることとするのが適切である。

  なお、疾患等のケースにあっては、諮問機関に主治医の意見を報告しておくことも大 切である。

3 認定等の判断の内容と本人への通知

指導を要する教職員として直ちに認定を行うもののほか、1年程度、今まで以上の何 らかの指導を行ったうえで認定するかどうか判断するもの、あるいは、今でどおりの指 導を継続して行うことが適当とされるもの等、いくつかのケースが考えられる。

正式に認定したものについては、本人にもその事実を伝え、併せて指導内容と期間を 校長から示し、本人と話し合いながら支援措置を講じていくことが適切である。

  なお、認定以外の対応のものについては、校長が日常的な指導の中で本人に示すかど うか個々に判断することが望ましい。

4 認定の時期 

  指導経過を観る期間を最低1年間とすれば、通常は年度末が相当と考えられる。ただ ケースによっては、年度途中もあり得るとしておくことが必要である。

5 精神的疾患に関する受診指導・受診命令

  管理職が人権に十分配慮する中で、受診指導を行う必要が生じる場合も想定される。 認定に当たってもその前段として、そういった対応がないと判断しにくい場合が出てく ることが考えられるが、受診指導を繰り返しても応じないケースについては受診命令を 発することも検討すべきである。ただ、その際は、十分な指導経過と記録が必要であり、 また、諮問機関の意見を聴いておくことが適切である。

 

 

 

1 本人への通知

  本人への伝達に際しては、本人の気持ちを十分考慮する中で、根拠となる客観的な事 実を正確に伝え、併せて本人の良い評価をされるべき点もはっきり示すなどの配慮を行 うことが重要である。

  また、当然このことは、本人と管理職や指導担当者以外は知ることのないような配慮 も必要である。

  

2 認定後の子どもたちへのフォロー

子どもたちは本来質の高い教育を受ける権利がある。直ちに認定に至るケースなどは、 これまでも、子どもたちに何らかの影響が生じてきていることが想定され、また、周囲 の教職員にも相当負担がかかっているものであり、認定後は子どもたち等への影響を最 小限とするように必要な措置が執られることが望ましい。

国の動向に注意

国においては、不適格教員に対する措置が検討されるという動きがあると聞いている。 今後、その動向には十分注意し、それを受けて本県としても適切な対応がなされること を望みたい。

4 管理職の役割

  指導を要する教職員対策は、この認定を始め、指導、記録等管理職の果たすべき役割 が大きく、かつ非常にきめ細かな配慮を要する部分も多い。

  管理職は、日頃から教職員とのコミュニケーションの円滑化に努めると同時に、評価 や指導面での自己啓発や積極的な研修受講による自己研鑽に励むことが必要である。

また、併せて、教育委員会事務局の人事担当職員についても同様のことを望みたい。

 

 

記録の方法

 勤務評定とは別に、原因分析、指導計画、指導経過、指導の成果評価及びそれらの繰り返しに関する詳細な記録が必要である。

 基本的な考え方

 

 日常的な指導が十分でなければならないし、それらの記録を採ることが必要である。

 記録と指導はセットで考えるべきである。

本人に目標を立てさせ、指導を行い、その成果を検証する。そのサイクルの繰り返しを積み重ねて初めて記録になる。

記録は必要事項を網羅した総合的、体系的なものになることが望ましい。

 指導経過の明確化は、本人の抱える問題点の分析や指導方法の改善、本人との面接協議時の資料として必要であるとともに、他の類似例の処遇検討にも活用の余地が出てくるものである。

指導を要する教職員としての認定の前段階でも、記録は必要である。

 すなわち、認定されて初めて記録が始まるのでなく、何らかの問題点を感じる教職員について指導記録を採り、それをもとに認定するという手順が確立されなければならない。

 認定後の記録の必要性は一層増すものとなる。

 全教職員を対象とする勤務評定と比較した場合、より具体的な事実と指導経過の積み重ねの詳細な記載が必要となる。

 

 対応策

 

1 記録者

原則として校長であるが、教頭の補佐も必要である。

  また、指導担当教員が配置された場合には、校長、教頭に経過を説明、協議しながら その担当教員が行うことも考えられる。

2 本人による確認

  記録は本人に提示し、事実関係を確認させ、理解納得をさせることが望ましい。

  しかしながら、それを拒否するケースやあくまで判断に異を唱え混乱することになる ケース等が相当数出る可能性もある。本人の反応、理解の程度などを記録しておくこと も必要である。

そういった部分を十分見極めながら、可能な限り、記録をもとに本人と語り合うこと が改善につながるものと考える。

  なお、勤務評定の本人へのフィードバックの問題も同様の視点であり、将来的な検討 課題ではないかと考える。

  また、これを実施するには、管理職の面談技術、指導力の向上が欠かせないことも付 言しておく。

3 記録内容

総合的、体系的なものになることが望ましいので、統一様式を作ることが必要である。

その中には、問題点発生の経過、原因分析、指導計画、指導経過、指導の成果評価、 及びそれを受けての指導計画の見直し等の項目が具体的事実をもとに詳細に、時系列的 に記載できるようなものであることが必要であると考える。

4 記録の期間

指導期間とも重複してくるが、一般的には学校のサイクルに合わせて年度を単位とす ることになると思われる。

 期間の更新はあり得るが、指導を要する教職員と認定された以降のものは、分限休職 の期間との均衡やある程度の期間での見極めも必要なことを考えると、最長でも3年と すべきである。また、認定前の記録については、早期の見極めが必要なことから1〜2 年を限度と考える。

なお、ケースによっては年度途中で終了の判断が出てくることもあり得ると考える。

 

 

 

勤務評定との関連性

勤務評定は、評定すべき各項目の個別評価とそれらをもとにした全体評価を行うもの である。これに対して、この記録は、その教職員が抱える問題を中心に絞った項目につ いて掘り下げたものになること、また、勤務評定と比較すると、より具体的な事実と指 導経過の積み重ねの詳細な記載が必要であることといった面で異なり、別のものである。

ただ、関連性はあり、当然整合性は求められるものである。

適正な記録

記録と指導は一体であり、また評価とも重なるものである。従って、管理職の評価能 力、指導力が何よりも求められるものであり、管理職の自己研鑽はもとより、管理職研 修等を通じて技量向上の努力が不断になされることが重要である。

指導の在り方

 いろいろな手法の中から、本人に最適なものを選び出し、日常的、継続的な指導が必要である。

 基本的な考え方

 

 本人の抱える課題を早期に発見し、きちんと分類して最もふさわしい指導を行うことが大切である。

 指導は一方的なやり方にならないようにする必要がある。

 自覚を促すことに意味がある。

 そのため、本人に対して、どういう指導をするかを予め表明するとともに、ケースによっては、自己評価も入れて双方向性を持ちながら、取り組んでいくことも検討すべきである。

 また、評価、指導、チェックのサイクルが必要である。

目標を立てさせ、指導を行い、その成果を検証する。そのサイクルの繰り返しを積み重ねて初めて記録になる。

なお、指導は、指導を要する教職員と認定されて初めて行うものではなく、認定に至るまでの間でも、認定を行うかどうかの判断のための指導が必要である。

 

 対応策

 

1 指導計画の樹立

育成(行動改善)を目標とした項目について、指導方法と指導期間を事前に本人に伝 えておくことが必要である。

また、当然のことながら、指導計画は、進行状況によって随時手直しすることが求め られる。

2 継続的指導

  指導担当者は、本人と面接しつつ、本人に目標を立てさせ、その取り組み成果を聴く とともにチェックする。

こういう双方向の指導を継続し、人事考課の考えや自己評価も入れることによって、 本人も職能成長を遂げるようなものにしていくことが望ましい。

ただ、本人による自己点検評価が難しいケースも相当あることが想定される。

  指導を要する教職員対策とは別途に、毎年、定期的に、全職員を対象とした自己申告 制を設けて、そこで目標を明らかにしてもらう手法も採っておくべきである。

3 指導基準の目安

総合的、体系的な指導を実施するためには、過去のケースを分析することなどにより、 こういう事例では、こういった指導が望ましいという一定の指導基準の目安づくりを検 討してみてはどうか。

4 指導担当者

職場内での指導が基本であると考える。

  原則は校長であるが、当然、教頭は校長と連携して指導に当たるべきである。

そのためには、教頭の権限を高め、責任を持たせ、力量を高めさせることが必要であ る。また、程度の差はあっても問題を持つ教職員が複数いる学校には、教頭を複数配置 し、1名を指導担当教頭とすることなども検討すべきである。

ケースによっては、指導担当教員を別途配置したり、学年主任や同僚の協力、サポー ト、教育事務所等の指導主事の重点訪問指導といったことも考えられる。

5 指導する期間

単位は年度が適当である。更新もあり得るが、3年程度が限度と考えられる。

  また、ケースによっては年度途中で終了の判断が出てくることもあり得ると考える。

なお、基本的には記録の期間と同期間となることが多いものと考えられる。

6 県及び市町村教育委員会の関わり

 学校任せではなく、学校の主体性は尊重する中で、ともに参画し、分析や意見・助言 を行うなど積極的な関わりが必要である。

  また、ケースによっては、市町村教育委員会の事務局や教育研究所等の関係機関、あ るいは県教育委員会の事務局や教育センター等の場所での指導も検討すべきである。

特に、市町村立である小中学校においては、学校運営や服務監督の権限者である市町 村教育委員会の果たすべき役割が大きいと考える。

 

 

 

1 管理職の指導力の向上

  主たる指導担当者となる校長、教頭の指導力の向上を継続的に図っていく必要がある。

  そのためには、管理職が自己研鑽に努めることはもとより、県教育委員会や市町村教 育委員会は管理職研修の項目に指導力向上に関するものを導入したり、いろいろな機会 に適切な情報提供に努めるなどの取り組みを行う必要がある。

2 ケース毎の見極め

  指導は根気強く行うことが原則であり、教職員育成の視点は重要である。

  しかしながら、一方で子どもたちは質の高い教育を受ける権利があることを忘れては ならない。

  指導に当たる者及び最終的な判断を行う任命権者は、客観的な事実の積み重ねを慎重 に分析検討し、時には専門家の意見も聴きながら、判断に誤りなきよう細心の注意を払 うことが必要である。

 適格性を欠く者への指導は、困難であり、現実問題として改善は相当難しいと思われ る。改善が観られない場合には、人事上の措置も考慮されなければならない。

 

処遇の種類と方法

 まず、指導や研修で改善を図る。改善効果が見られない場合は、分限処分や転職が選択肢となる。精神的な疾患については別途考える必要がある。

 基本的な考え方

 

 子どもたちにとっての影響はどうかという視点で、学校内、学校外のいずれで処遇していくのがよいかを考えていくことも必要である。

 また、校内の志気への影響や周りの教職員にかかっている負担についても考慮すべきである。

 子どもたちと直接関わることから、はずすことについても勇気を持って臨むべきである。そのことが本人のためにも、子どもたちのためにも良い場合がある。

 一方で、学校や教職員を巡る情勢は厳しさを増しており、多くの教職員が多忙感やストレスの中で懸命にがんばっている。そういった教職員に対して、課題が生じれば単に、子どもたちの前から離してしまうという対策のみでは、倒れてしまったら終わりだという不安感を助長するだけに留まってしまうおそれがある。

 育成の視点で、励みになり、温かみのある対応策も検討されるべきである。

そういう意味では、カウンセリングシステムや復職に向けてのプログラム、別の道に進むための支援などについても検討が必要である。

 また、問題を抱える教職員の状況も個々にそれぞれ違いがある。様々なケースに対応できる幅広い選択肢が検討されることが望ましい。

 指導して育成していくべきものと、厳正に対応すべきものに分けて考える必要がある。

 指導を要する教職員対策は、突き詰めていくと人事管理全般との関わりが出てくる。

 原因分析を進めることによって予防策につながるし、認定基準の裏返しは望ましい教職員像となる。適切な指導や研修の方法を模索する中で、全ての教職員に対する指導・研修の在り方の見直しが必要となるかもしれない。

 採用から退職までトータルとして見る中で、総合的な育成・支援システムづくりの一環として、処遇についても検討が進められなければならない。

 なお、精神的疾患等に対する処遇は、きめ細かな配慮が必要な面もあり、特に別途、取り出して述べる。

 

 対応策

 

1 総合的育成支援システム

  それぞれの原因を十分分析する中で、適切な指導や研修の在り方の模索、子どもたち に影響のでないようにする工夫、自己啓発の手だてやライフプランづくりへの援助、希 望者への転職の方途の検討など総合的な育成支援システムづくりが必要である。

  

2 人的支援

  子どもたちへの影響を少なくするとともに、TT(チームティーチング:複数教員に よる指導)や副担任制などの形態で密着指導することにより本人の自立を早めるという、 ねらいを実現するには人的支援が必要である。

  子どもたちのためにという視点で積極的な財源措置がなされることが望ましい。

  しかしながら、現在の厳しい財政状況や社会情勢からは、安易な教職員定数の増員は 望めない。そのため、例えば、一人が何校かの時間講師として指導を担当、あるいは60 歳代前半の再雇用制度である再任用制度の活用、学校ヘルパーとしてのOBボランティ アの協力など様々な工夫も併せて検討すべきである。

3 育成型の指導

本人と面接し、話し合う中で自己分析させ、目標を設定させる。目標に向けて計画的 な指導のもとに研鑽させ、その成果を検証して、目標や指導内容に修正を加えつつ進め ていくという育成型の手法が有効であると考える。

  

4 研修

それぞれに合った多様な研修メニューの構築が必要であると考える。そのためには、 研修内容や研修先についても工夫が必要である。

また、職場研修(校内研修)は重要であるが、その場合、子どもたちへの十分な配慮 を併せて検討しておくべきである。

5 カウンセリングシステム

指導を要する教職員の多くが、自信をなくしたり、何らかのストレスを感じたりして いると思われる。また、認定を受けた後の心のケアや復帰に向けての不安を感じる場合 も想定される。

  また、復帰前後に限らず、予防の面でもカウンセリングは重要である。

教職員が気軽に利用できるカウンセリングシステムの構築が望まれるが、注意すべき ことは人事管理所管課とは異なる部署、あるいは第三者機関が担当することが必要な点 である。カウンセリングは、秘密の保持が一番の前提となるもので、相談したい教職員 に警戒心を抱かせないよう、こういう視点を持って、今後検討されることが望ましい。

さらに、教職員が相談に行きやすい職場の雰囲気づくりや条件整備に努めることも重

 要である。

6 復帰プログラム

復帰のための体系的なプログラムづくりが望まれる。それには、職場の同僚や家族、 その他の関係者全員が心を合わせて温かく見守る中でのきめ細かな対応が検討されなけ ればならない。

関係者の理解がない中では実効あるものとはなりにくいので、校長等はそういう心の 受け皿づくりにも努める必要がある。

また、同時に、子どもたちへの心配りも併せて必要となってくることを付言しておく。

7 分限処分や転職

  本人は意識していないが、異常が複数の者から指摘される場合には、人権に配慮しつ つ根気強い受診指導が必要であるが、ケースによっては受診命令を発することも検討す べきである。

  また、子どもたちは質の高い教育を受ける権利があるとともに、教員には質の高い教 育を提供する責任がある。民間では周りのサポートもある程度可能だが、一人で子ども たちを見る教員は同列では論じられない特性がある。

  教員以外の職員も少なからず子どもたちへの影響があるのは同じである。

そのため、仕事をはずす決断も必要な場合があり、また、転職という選択肢も検討す る必要がある。

管理職の降格についても、必要な場合は実施していくべきである。

 

 

 

1 同僚、保護者の理解

認定自体は公表すべきものではないが、周りの教職員には何らかの負担がかかってく ることも予想されるとともに、何より子どもたちや保護者にも一時的には理解を得なけ ればならない状況もあり得る。

そのためには、校長等は日頃からのコミュニケーションを通じて信頼関係を深めてお くことが必要であり、また、本人自身の積極的な取り組みも欠かせない。

  教職員を学校全体と地域が支えていくことが望まれるが、その原動力は日頃の子ども たちへの教育実践である。

2 職場の人間関係、風通しの良い職場

予防という観点からも、また、復帰を円滑に行うためにも、そして、何より教職員が 日々教育活動に没頭できるためには、互いが切磋琢磨する中でも、明るく、健康的で、 何でも相談し合える職場、地域の人とも気軽に行き来ができる学校とならなければなら ない。

そのために管理職の果たすべき役割は非常に大きいが、教職員一人ひとりも自らその ような職場づくりの一翼を担う心がけが大切であると考える。

特に精神的疾患等への対策

 教職員が多くのストレスを抱え込んでいるという指摘もある。メンタルヘルスは重要であり、精神的疾患等のケースは、十分な見極めを行ったうえで、何らかのフォローが必要な場合がある。

 基本的な考え方

 

 フォローの在り方を含めたシステムづくりが必要である。

                         

 学校現場は様々なストレスが渦巻いている。また、学校組織の特性から、ややもすると教職員一人ひとりが孤立する危険性もはらんでいる。

その現実に目を向けるならば、周りが温かく支援していくシステムを作ることこそが急務であり、それがないと、教職員が安んじて教育活動に取り組めなくなる心配がある。

 一方で、子どもたちのサイドから見ると、質の高い教育を受ける権利がある。また、学校教育は、多感な子どもたちの人間形成の一番重要な時期のものである。

 教職員は子どもたちの教育を担っているという重い職責があり、その職務に「適格かどうか」が判断のもとになる。教職員仲間として守り育てたい気持ちがあるのは当然であるが、一方で子どもたちや保護者からの日々の訴えには、率直に耳を傾ける必要があると考える。                    

 精神的疾患は多様な症例があり、専門家の意見を十分聴く中で、指導育成していくケースと適格性に判断を加えるケースとを見極めていくことが大切である。

 精神的疾患のケースでは、回復に長期間を要するものがあり、そういったものには十分な配慮がなされることが望ましい。特に誤った偏見は払拭すべきである。

 ただ、復帰に際しては、職務が全うできるか十分見極めることが必要で、安易な復帰は子どもたちへの影響が大きいことに加え、本人にとっても悪い結果を招くケースが多いことに注意しておかなければならない。

 

 対応策

 

1 予防

可能な限り予防に努めることが最良の対策である。

  風通しの良い職場づくりを進める中で、できるだけストレスをためないように、課題 は一人で抱え込まず学校全体で当たる、業務の偏りをなくす、互いが相互チェックする、 事務見直しでゆとりを作る、学校の外に目を向けるなどに取り組むことも必要である。

また、カウンセリングシステムの構築も検討することが望ましい。

2 早期発見、早期治療

本人に意識のないケースが多いことから、人権にも配慮しつつ、専門家の意見を聴い たうえで、家族等の協力も得て早めに受診させる必要がある。

ねばり強く説得に努めることが必要であるが、場合によっては受診命令を発すること も考慮すべきである。

  はっきりとした病気の場合には対応も明確なものがあるが、病的かどうか、はっきり しないケースもあり、そういう場合は対策が立てづらいことに注意しておく必要がある。

  また、本人が診察やカウンセリングを気軽に受けに行くことができるような職場の条 件づくりも大切である。具体的には、一時的に互いが授業をカバーし合える体制や偏見 をなくし、気安く受診の話のできる職場の雰囲気づくりなどに努めることが望ましい。

3 主治医等との連携

本人への対応に当たっては、専門家でないとわからない注意事項もあるため、十分な 連携のもとに慎重に進めていくべきである。本人が学校を離れている際にも、主治医等 を通じ様子を聴くなど関わっていくことが大切である。

また、復帰が近づいてくれば学校として必要なサポート体制について主治医等の意見 を聴いておくことが重要である。

4 復帰に際して

 仕事の軽減により復帰可能となるケースがある。その場合、少し軽減して可能なケー スと、座ることから始めなければならないケースとがある。

任命権者側とすると復帰の判断は、本人の状況や学校の体制、子どもたちの状態など を総合的に見て慎重に行う必要がある。

  復帰に向けてサポートする人員配置がないと、復帰のプログラムづくりが困難となる 心配がある。高校であれば、担当時間数を減らすことで可能かもしれないが、小学校で はやりにくいため、人的支援を検討することが望ましい。難しいとすれば、学校全体と してのサポート体制を検討すべきである。

 

 

 

1 人権への配慮と守秘義務

  人権には細心の注意を払いながら対応していくことが大切である。

受診指導や家族への相談、主治医との面談等いろいろな状況において、慎重な言葉遣 いや事前の本人の了解が求められる場合がある。

  専門家でない者が安易な判断をすることは厳に慎むべきである。

また、守秘義務の徹底は対策の基本である。

2 潜在化

  ケースによっては、表に出ている要因の裏に精神的疾患が潜在化しているものがあり、 慎重に分析することや専門家の判断を仰いでから方針を決めることが求められる。

研修の在り方

 研修は職場研修(OJT)が基本である。指導を要する教職員についても基本的には同様であるが、子どもたちへの影響を考えた場合は、別の工夫も必要である。

 基本的な考え方

 

研修は、まず、上司・先輩によるOJTが基本で、以下、自己啓発、研修機関での研修という順番になり、職場を移ることでの研修は最後のものとすべきである。

ただ、指導を要する教職員対策としては、人的支援でもない限り、職場内でそのまま研修というのでは子どもたちに負担を強いることになるか、他の教職員へのしわ寄せが大きい。子どもたちから一旦離すという意味での校外研修も検討すべきである。

 また、自己啓発研修に支援を行うことも検討が必要である。

本人の自覚を促す意味での取り組みという側面と、総合支援システムの一つとして本人が別の道を選択するための支援という二つの意義が考えられる。

 自己評価させ、自分の必要とする選択的研修を受けさせるのも一つの方法である。ただ、本人の自覚がこのレベルにいかないなら校外での指定研修も考慮する必要がある。

本来の校内研修という点では、最近は校内の教育力が落ちている懸念がある。職場研修の重要性を再認識しOJT本来の意味で機能が十分発揮されるように努めることが大切である。中堅職員の人材育成における役割は大きいので、予防的な視点も含めてその復活を期待する。

 指導を要する教職員の中には、使命感やプロ意識に疑問が投げかけられる場合があり、そういったケースでは、意識づけに重点を置いた取り組みを検討すべきである。

 

 対応策

 

1 校内研修の工夫

本来の意味での完全な復帰を図るためには、校外での研修を受けるよりも、子どもた ちと接しながら行われる職場研修、すなわち校内研修によることが必要である。

  校長等により、計画的できめ細かな指導がなされることが望ましいが、その場合、子 どもたちへの影響をなくすための手だても合わせ講じられる必要がある。

また、中堅職員の役割も重要である。メンタリング(先輩のアドバイス)とモデリン グ(モデルや目標とすべき先輩)が昔はあったのに今は欠けている感があり、指導を要 する教職員に対してもそういった視点で中堅教員を指導に当たらせることも検討すべき である。

  なお、本来の趣旨とは異なるがTT加配制度などを活用し、補助的な取り組みから始 めさせることも一つの方法である。

さらに、校内研修のメニューを多様化するなどの工夫も必要である。

2 多様な研修

  研修のメニュー化を図り、選択肢を増やすことによって、本人にふさわしい研修を受 けさせる、あるいは本人の意思による選択をさせるなど、いわゆる選択制の研修を導入 することが望ましい。メニューの公募も一方策であると考える。

  また、自己啓発のための研修の機会を増やすとともに、通信制の研修も活用し、積極 的な受講には一定の補助をすることなども検討すべきである。

 さらに、ケースによっては民間企業等の協力を得て、社会に目を見開く社会体験研修

 も一つの方策として検討の余地がある。

  

3 総合支援システムの一環

日常的な校内指導は継続しながら、支援策の一つとして、ライフプランを本人に作ら せたうえで、本人が別の道を選択するための希望する通信教育を導入し、完了したら半 額補助するなどの試みも検討することが望ましい。

4 精神的疾患等から復帰後の当面の措置

  事務的な仕事からリハビリ勤務的に始めて、その積み重ねなどで完全な復帰を目指す ような方法も検討すべきである。

5 校外研修

ケースによっては、市町村教育委員会の事務局や教育研究所等の関係機関、あるいは 県教育委員会の事務局や教育センター等の場所での研修も一つの方策である。

  一時的な活用も考えられるが、長期の場合には学校に代替教職員の配置が必要である。

 

 

 

1 研修の成果評価

一般研修よりも慎重に成果の検証を行っていきながら、都度々々研修内容に必要な改 善を加えていくべきである。

2 民間企業等での研修

  これは本来、社会的常識を培う目的のものであり、指導を要する教職員対策としては 疑問である。

ただ、やや課題があるという程度の者については、検討の余地があるかもしれない。

問題解消と復帰

 復帰プログラムのシステム化が必要である。育成の視点でどう自信回復につなげるかがポイントである。

 基本的な考え方

 

 子どもたちの利益と、指導を要する教職員の育成の利益を調整するためには、学校全体のフォローや何らかの支援が必要である。

 県民の理解を得るには、指導を要する教職員自身の問題解消や復帰に向けた真剣な取り組みと、子どもたちへの影響を皆無にしていく学校の努力が求められる。

 そのいずれかが欠けることによって、子どもたちや保護者に我慢を強いる結果になることを常に念頭に置く必要がある。

 学校を巡る様々な状況に厳しさが増す中で、各教職員それぞれがいろいろなストレスや程度の差はあっても、何らかの不安感を抱いていると思われる。

 そういった中で、指導を要する教職員対策が各教職員の理解を得る大きなポイントの一つが、この復帰プログラムのシステム化であると考える。不適格な者は論外にしても、各教職員が安心して職務に専念できるようにすることは任命権者や管理職の責務である。

 システム化に当たっては、計画的な取り組みと丹念な支援が必要である。問題解消や復帰の時点で、自信を回復させ、完全なものにすることが、指導を要する状態の再発防止になるという観点も考慮すべきである。

問題解消や復帰についても、判断は任命権者である県教育委員会が行うべきで、認定時と同じ諮問機関の意見を聴くことが望ましい。

 

 対応策

 

1 計画的な取り組み

本人と十分話し合ったり、主治医の意見を聴くなどして、認定時から問題解消や復帰 に向けた取り組みを開始すべきである。

計画は、進行状況に合わせ時期々々に応じて必要な見直しを加えるなど柔軟な対応が なされるべきである。

特に精神的疾患については家族等との連携が重要である。

2 復帰間近の対応

  暫定的な業務軽減(リハビリ勤務)等の業務態勢の見直しをはじめ、同僚や保護者の 理解を求めたり、あるいは人事異動が好ましい場合や何らかの支援措置が必要なケース については、その手続き作業に着手するなど受け皿づくりに努めることが必要である。

なお、復帰前の模擬授業については、子どもたちの前で直接行うことは好ましくない と考えられるので、別の方法で実施するよう工夫をすべきである。

 

復帰後の対応

学校全体としての支援に努めるとともに、本人に負担感が起こらないようきめ細かな ケアを実施したり、場合によってはカウンセリングの機会を設けるなど着実な復帰に向 けて経過観察に努めることが必要である。

  また、当然のことながら、子どもたちへの影響にも心配りを忘れないことが重要であ る。

4 判定時期

  年度の区切りを基本とするが、ケースにより、年度途中のその都度の判定もあり得る と考える。

5 判定前の本人面接

可能であれば実施し、本人の意向や状態を十分把握しておくことが望ましい。

 

 

 

1 カウンセリングシステム

  カウンセリングシステムを設けるならば、任命権者の業務を所管する部門とは、全く 別の部門あるいは第三者機関で所管することが必要である。

人事管理担当部署に対する秘密保持が担保されないと、教職員側では利用しにくい状 況になる懸念がある。

また、教職員が相談に行きやすい職場の雰囲気づくりや条件整備に努めることも重要 である。

復帰判定

安易な復帰の判定は、子どもたちへの影響が心配されるのみでなく、本人にとっても 復帰を失敗に終わらせる可能性もあり、決して行うべきではないことを付言しておく。

 

 

若年退職優遇

総合支援システムとして考える場合には、若年退職優遇制度は一つの方策である。

 基本的な考え方

 

 新陳代謝を図る意味での定年前退職優遇制度が現に存在するが、若年者に今後違った分野への飛躍を動機付けるためには、対象年齢の拡大や優遇内容の大胆な見直しが必要である。

 一方で、国や本県の非常に厳しい財政状況や公務員の給与体系全体の中での位置づけについて十分考慮したうえでの措置となるような工夫が必要である。

 若年退職優遇制度は、現在の少子化が極めて近い将来、あらゆる分野における人材確保に物理的な支障を生じさせるという課題への対策として有効である。

 また、公務部門が今後ますます、限られた人員数で、より以上のサービスが求められる状況を考慮した場合、より情熱と能力を併せ持った適材の確保に努めると同時に、採用後の何らかの事情により、現在の仕事に不適応感を持つ者に対して次へのステップを支援するものとして若年退職優遇制度は重要である。

 特に、指導を要する教職員に対しては、現に「子どもたちが被害者となっている。」といった厳しい声までも寄せられている中で、年齢の低い若年者の層にも、そういった実態が見られる状況を考慮し、子どもたちから離すための一方策で、かつ本人の将来設計へのサポートも兼ね備えたものとして整理したい。

 また、公務員に関する現行法令のもとでは、身分保障規定が強力であり、分限処分がなかなか容易には実施できない実態にも考慮すべきである。

 なお、国においては今後、分限に関する規定の見直しが検討される可能性があり、その状況については、今後とも十分注意すべきである。

 

指導を要する教職員対策が差し迫って大切な課題であることを考慮すれば、当面数ヶ年の期間を限ってでも大胆な制度導入が望まれる。

それ以降については、制度の実施状況の検証も行うとともに、国の状況も見ながら再度検討していくことが必要である。

また、若年退職へ至るまでの各種情報の提供、ライフプランづくりや自己啓発研修等への支援の必要性は既に述べたとおりであり、積極的取り組みが望まれる。

 

 対応策

 

1 年齢設定は、40歳以上とすることが適当である。

 その理由としては、

 @勧奨退職の対象となる50歳代に至るまでにも指導を要する教職員が存在すること、

 A民間企業でも40歳代から将来への選別が始まる実態にあることから、県民の理解が 得やすいこと、 

 B若年者を対象にするとはいえ、退職優遇制度は本来、勤務貢献に対する措置という性 格のものであり、ある程度の勤務年数は必要であること、

 Cそういう中でも次のステップへの支援としての位置づけからは、可能な限り若年も対 象としたいこと

 などが挙げられる。

2 現行制度から考えた場合、当面は退職金計算の基礎となる給料月額の増額や支給率の 適用優遇などを検討することが適当である。

退職手当を含む公務員給与制度は、現行法令で国家公務員に準拠することが原則とさ れており、当面措置をするとすれば上記のものが考えられる。

ただ、本来はより大胆な制度見直しがあれば効果は大きいと考えられるが、当面の措 置による成果もみたうえでの将来的な検討課題としたい。

3 対象は、指導を要する教職員に限らないものとすること。

  若年退職優遇制度は、あくまで新陳代謝を目的とするものであることから、年齢や勤 続年数等定めた要件を満たす者はすべて対象とすることが、その本来の趣旨に合うもの である。

 

 

 

再任用制度との関連

平成13年度から、すべての公務員の定年退職者を対象とした退職後の再任用制度が 実施される。

 これは、少子化という社会現象を受けて、高齢者の能力を活用し将来にわたる人材確 保を図るとともに、年金受給年齢の引き上げという状況を考慮し60歳代前半の雇用を 確保するという両面の要請を受けたものである。

これに対して、若年退職優遇制度は、あくまで本人の意思に基づく退職であり、かつ 現在の仕事への不適応感を持つ者への対策と「こどもたちが被害者」という厳しい現実 への対応を合わせ解決する方策であって、再任用制度とは全く異なるねらいを持つ。   再任用のねらいの一つである将来の人材確保は別途対策すべきであり、もう一つのね らいである長期勤続者の再雇用は、自らの意志で若年退職した者は対象とはなり得ない ものである。

2 国を上回る措置の財源対策

  県単独での予算措置が必要となろうが、ことの重大性を十分考慮する中で英断が望ま れる。ただし、不適格に対する分限制度がある中で実現していくには、制度の仕組みの 実態と現実的な方法であることについて、十分県民の理解を得るような努力が必要であ る。すなわち、現行法体系では分限免職がなかなか難しいこと、また、指導を要する教 員対策というより新陳代謝という要素が前提であることなどを十分説明し、理解を得る 必要がある。

3 国の動向に注意

国においては、教育改革国民会議の報告を受けて、今後、いわゆる不適格教員の分限 免職や転職について法改正も含めた検討がなされるという動きがあり、これには十分注 意していく必要がある。

 

 

分限処分と転職

 常に、子どもたちのためにどうかを考えるべきであり、ケースによっては、本人の意に反する処分や転職も検討することが必要である。

 基本的な考え方

 

 教室は密室で子どもたちは逃げられない。指導を要する教員が育ち盛りの子どもたちにとって悪影響を与えている現実に目を向ける必要がある。

 また、本人だけでなく、その存在が組織の士気の低下にもつながっているという実態もある。

 このような場合、逡巡することなく、仕事をはずすことを検討するべきである。そのことが、後で振り返って見たときに、本人のためになる場合もある。

 適性がない者をいつまでもその職に置くことは、本人にとっても社会にとっても損失である。

過去に指導を尽くしても改善が見られない者は、早期に判断をすべきである。

 また、同時に、少しでも指導や研修などによる改善の可能性が残っている者については、手順を尽くし支援していかなければならない。

 原因分析から、指導、研修、その他考え得る限りの手だてを講じ、その間子どもたちには影響のでない方法を工夫し、ライフプランや自己啓発、そして希望すれば転職の方途も検討するという総合的な支援システムが必要である。

転職については、選択肢の一つとして考慮すべきである。

 ただ、現実にどういった転職先があるか難しい面があるが、本人の希望がある場合には積極的に検討することが必要である。

 また、転職は法改正がない限り、本人の同意がないと難しいと考えるが、国において、法改正も含めて今後検討するという動きがあり、十分注意していく必要がある。

 

 対応策

 

1 分限免職

 現行法のもとでは、指導を尽くしても適格性を欠くという事実の積み重ねが要件とな っている。

  そのためには、管理職等の日常的な適切な指導とその記録が必要であり、統一的な考 え方のもと、一定の経過観察期間を設け、指導、研修を実施するとともに、それらを記 録するという体系的なシステム構築が望まれる。

  また、現に、課題が多くあって、そういった指導や記録がある程度あり、かつ適格性 に改善の見込みがなく、できるだけ早く子どもたちから離すことが必要があると判断さ れるケースについては、思い切って直ちに対応すべきである。

2 転職

 上記1にも述べた体系的なシステムにおいて、免職相当との判断までには至らないに しても、当分の間、学校から離れた場所で勤務することが適当と判断されるケースにつ いては、本人に転職を勧める必要がある。

  本人から転職したいとの申し出がある場合も含めて、可能な限りその意向を実現でき る制度や運用の確立に努めるべきであり、一定の転職先の確保が必要である。

  その場合の転職先としては、第一義的には県教育委員会事務局及び関係機関、あるい は市町村の理解を得て市町村教育委員会の事務局及び関係機関が考えられるが、今後、 首長部局等他の機関への要請も必要であると考えられる。

  ただ、当然のことながら、転職に当たっては、転職先での業務に適性があることが大 前提となるものであり、そうでない者は分限免職とすべきである。

3 分限降格

  管理職としての適格性に問題が生じている者については、降格を実施すべきである。

  こういった事態が生じていることの影響は非常に大きい。身分を失わせる免職や、身 分変更を伴う転職に比較すると、管理職としてどうかという視点に絞られるものである ことから、根拠となる事実の積み重ねや記録は一定必要ではあるが、より早く対処すべ きである。

  降格後の配置校での子どもたちや保護者の理解がどの程度得られるのかという問題も あり、特に校長で問題がある者には、その重い職責を全うできなかったことを考えると 諭旨退職という対応も必要ではないかと考える。

 

4 分限休職

  本人は意識していないが、管理職のみならず同僚や子どもたち、あるいはその他の者 が客観的に見て、医師への受診が必要ではないかと思えるケースが現実に存する。

  その際には、医師等専門家と十分相談しながら、そのアドバイスを受けて、人権にも 細心の配慮をしつつ根気強く本人を説得することが必要である。場合によっては家族の 理解を求めることも考慮すべきである。

  その上で、手順を尽くしても本人が応じない場合には、受診命令を発するべきである。

 度重なる受診命令にも応じない場合は、職務命令違反としての措置も検討する場合が 出てくると考える。

 家族の協力を得て医師等専門家の判断によって、本人の意に反する分限休職も検討す べきケースはあり得ると考える。

 

 

 

分限処分等の受け止め

  分限処分等については教育という仕事に「適格かどうか」を基準に慎重に判断される べきであることを認識しておくことが重要である。

 

教職員全体への配慮

  不適格と判断される者に、厳正な対応が必要なことは当然であるが、いたずらに教職 員全体に不安感をあおったり、本来の教育活動のうえで萎縮感を植え付けることになら ないよう、配慮することも必要である。

  子どもたちにとってどうなのかをまず考える中で、十分に個々の見極めを行い、厳正 に対処すべきは果断に実行し、支援が必要な者には手を尽くすという人事管理の本道を 歩むことを人事当局には望みたい。

3 教職員及び教育行政関係者個々の自覚

  教職員を見る保護者、県民の目は厳しい。それは熱い期待の裏返しでもある。教職員 及び教育行政関係者一人ひとりに使命感と、プロ意識を今一度思い返してもらいたい。 それにもし欠ける部分が少しでも出てくるときには、県民の見方が一気に偏ってしまう 時期に来ていることを敢えて付言しておく。

 

3 指導を要する教職員を出さないために

前にも述べたように、指導を要する教職員対策の本来の眼目は、そういった教職員を作らないという「予防策」にあると言える。

 これまで、指導を要する教職員対策について述べてきたが、その原因や契機、対策の成果などの分析を通じ、予防策を確立していくことが必要である。

 指導を要する教職員対策の成果については、今後検証していくことになるが、現状の分析やこれまでの取り組みの報告を受けて、我々としては「指導を要する教職員を出さない」ためには、次のような項目について、それぞれの対策が採られるべきであると考える。

(1)採用段階から…………………………………採用の在り方の改善

(2)条件付き採用制度を適切に運用する………条件付き評定の改善

(3)校内・校外研修の内容を見直す……………初任者や年次研修等の在り方の改善

(4)勤務評定の適切な運用を図る………………勤務評定の運用見直しと在り方の検討

(5)健康管理の重要性を認識する………………総合的な健康管理システムの構築

(6)働きやすい職場づくり(その1)…………より良い人間関係を築くための工夫

(7)働きやすい職場づくり(その2)…………職場の条件整備の推進

(8)学校の実際を知ってもらう…………………地域や家庭への情報発信と説明責任

(9)みんなで学校と教職員をサポートする……地域や家庭をはじめ社会全体での支援

10)教職員一人ひとりの自覚が大切である……使命感・プロ意識のもとに自己変革

以下、順次考え方を述べる。

(1)採用の在り方の改善

教職員の資質・指導力の向上は、養成、採用、勤務後の3段階で対応する必要がある。

入り口である採用は、より良き人材を得るという意味で予防策の一環をなすものである。

企業の採用は知識より人間性を重視する。そういうものが教職員採用全体に貫かれているか見えにくい。

 豊かな人間性と幅広い視野を持ち、子どもたちを教育するという非常に重要かつ困難な職務に適性を有するかどうかを見極めなければならない。

 変化の激しい時代の中で、子どもたちや保護者の価値観は多様化し、刻々変化もしている。そういう中では、子どもたちを本当に好きで、慈しみ育みたいという情熱のもとに、多様な子どもたちを受け止め、共に喜び、悩み、考えていくことのできる資質を要する。 集団行動はできるか、協調性はどうかといったことも教職員として重要な要素である。単なる教科指導テクニックだけでは、乗り切れない時代に来ている。教職員の生き方、信条をはじめ教育に対する哲学が問われている。

 

 そういう教職員としての使命感やプロ意識をどうやって見抜くか。むろん採用後の育成も重要であるが、入り口でそれらを見極めていくことも必要である。

 

 ただ、民間も含めて、面接のみで人物を見極めることは難しい面があるのも事実である。

面接以外の論文などでも人物を見ることができるような工夫を行うとともに、条件付き採用制度の適切な運用や採用後の育成方法の充実も同時に考えることが大切である。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・筆記審査

 採用は人物重視の観点をさらに進め、筆記は必要なレベルに達しているかどうかのみに止めることが適切である。

 筆記審査は、できるだけ広く採る視点で行い、広い選択範囲の中で人物を見ることが望ましい。

・面接審査

面接担当者や内容、手法の様々な工夫がなされてきているが、さらに、民間方式の研究や採用後の検証を行うことなどで、今後とも、細かな改善を加えていくことが適切であると考える。

 また、面接技法の研修の充実を図ることなどによって、面接能力の訓練に努めることも必要である。

 

・論文や作文審査

 論文や作文の出題の方法も人柄、情熱を見るものに工夫していくことが重要であると考える。

 また、論文や作文審査の回数を増やし、多面的に受審者の考え方を見ることができるようにすることが望ましい。

・適性検査

 今後とも適性検査の充実を図ることが望まれるとともに、検査結果分析を十分に行い、採用後の追跡調査も実施することが必要である。

・新規卒業者の採用

 今後、少子化のもとでは、必要な人材確保という面で新規卒業者の確保は重要であるが、一方で、多様な子どもたちに対応するには、様々な経験に培われた人間性や幅広い視野が必要である。

 そのため、今後、新規卒業者の採用については、需給状況も十分分析する中で慎重に行い、民間での勤務経験を有することを条件としたり、期限付き講師を何年か経験させ、その勤務状況も参考とする方式を検討する視点も重要である。

 また、当面の措置として、民間での勤務経験者の採用上での工夫も検討課題であると考える。さらに、一旦退職して民間勤務の経験を積んだ後、再び教職をめざす者について、再採用の方法を検討することも考慮されたい。

 

 

(2)条件付き評定の改善

 教職員の条件付き採用制度は、予防策としても重要である。

 教員は1年間、その他の者は6ヶ月間という条件付き採用期間中に、十分に本人の資質の把握に努めるべきである。

6ヶ月〜1年間かけて、適性がない者については方向転換をしてもらうシステムであり、本人のためにも、子どもたちのためにも、出発点を厳しく見ていく必要がある。

そのためには、管理職による条件付き採用期間中の勤務評定の在り方が大切である。

 評定者である管理職は、安易な温情は本人のためにならないし、子どもたちに対しても責任を果たさないことになることを十分認識すべきである。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・評定者

日々直接接している校長の評定は重要である。今後とも、校長の実態把握能力や評価能力の向上に努めるとともに、複数で見る趣旨から、教頭を第1次評定者、校長を第2次評定評定者とすることも検討すべきである。

・条件付き評定の内容

 より、詳細かつ具体に評定がなされるよう、内容や様式の見直しも検討課題であると考える。

・県教育委員会や市町村教育委員会の関わり

 県や市町村の教育委員会も、学校への定期訪問や臨時訪問の機会に、対象者と面接したり、その授業を見るなどにより、今まで以上に情報収集に努めるべきである。

また、学校や教育センターで実施される初任者研修における対象者の状況分析をより詳細に行うことが望ましい。初任者研修を条件付き評定の中でどう位置づけていくかについても検討課題である。

・諮問機関の活用

 採用、不採用の判定に際し、あるいはそれまでの間に、必要とされるケースについては指導を要する教職員に関する諮問機関に随時諮問するなど、その活用も検討すべきである。

 

(3)初任者や年次研修等の在り方の改善

 教職員の資質・指導力の向上に研修が果たす役割は大きい。そのため、指導を要する教職員を出さないための予防策としても重要なものである。

 

研修はすべて、望ましい教職員を目指すものである。時代の急激な変化の中で、教職員に求められるものも拡大してきており、研修内容も不断の見直しが必要である。

新しい授業展開など教科に関する研修も当然重要ではあるが、特に、指導を要する教職員の中には、時代認識が乏しく意識改革が必要な者も多い。

 基本的な使命感やプロ意識を再認識させる視点と、時代を見つめる広い視野を養成する観点で、研修内容に見直しを加えていくべきである。

 

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・校内研修

 校長等により、計画的できめ細かな指導がなされることは、もちろんであるが、中堅職員の役割も重要である。メンタリング(先輩のアドバイス)とモデリング(モデルや目標とすべき先輩)が有効であり、その機能化を図るべきである。

 校内研修のメニューを多様化するなどの工夫も必要である。

具体的には、使命感やプロ意識を醸成するものや社会性を身につけるための研修なども視点に入れていくことが望ましい。

 

・校外研修

目的意識を持って研修に参加させるため、研修のメニュー化を図り、選択制の研修を導入することが望ましい。

また、参加型研修を推進するものとして、グループ討議や演習形式を多く取り入れたり、民間講師による講義や民間企業等の協力を得て行う社会体験研修の拡大も検討する必要がある。グループ討議ではお互いの業務上の悩みを話し合うことも一方策であると考える。

 なお、研修内容については、勤務に対する基本的な姿勢や意欲の確立につながるという分野のウエイトを従来以上に高めていく必要があることは校内研修と同様であり、年次研修にあっては、それぞれの階層が果たすべき役割に見合ったきめ細かな研修内容とするように努めるべきである。

・自己啓発のための研修

 時間的なゆとりも含めて、その機会を増やすとともに、通信制の研修も活用し、積極的な受講には一定の補助をすることなども検討すべきである。

・初任者研修

教員として求められる基礎、基本的なテーマ、例えば、使命感やプロ意識を始め、社会的マナーや社会情勢の見方などに関する研修を取り入れることが望ましい。

 また、条件付き評定上の位置づけも検討課題であると考える。

さらに、初任者の配置校を決定するに当たっては、校内のサポート体制や職員構成にも十分注意することが大切である。

(4)勤務評定の運用見直しと在り方の検討

 勤務評定制度が十分に、その機能を果たしているか検証する必要がある。

 教職員の勤務の実態を正確に把握することは予防策の一つとして位置づけられる。

勤務評定は、どういうふうに、どの程度把握され、どう活かされているかを詳しく分析したうえで、問題点を洗い出すことが必要であると考える。

 全国的に見ても、時代に見合った勤務評定の在り方について課題意識を持って見直しに着手する団体が複数出てきている。

勤務評定の見直しにあっては、民間における育成型人事考課の考え方も参考としながら検討が進められることが望ましい。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・当面の見直し

 勤務評定書には、抽象的ではなく具体的事実の記載を行うようにする必要がある。

 評定者間の差を少なくするためには、評価段階の具体的な尺度を作ることが望ましい。それをもとに、個々の具体的事実を照らし合わせながら判断していくことができるようにすることが適切である。

また、こういう指導をしたという校長の指導事項をつけさせることを検討すべきである。 それをチェックし、必要な者にそれぞれふさわしい研修を受けさせるといった活用方法もあると考える。

 評価者の訓練も大切である。管理職研修に評価技法の項目をはっきりと位置づけ、その充実を図っていくことが必要である。

 併せて、評価と指導は一体であるので、指導に関する研修も実施していくべきである。

・在り方の見直し

現行制度は制度化当初からほとんど改正がなされていない。

 時代の移り変わりとともに、基本的な部分は今なお有効としても、部分的な見直しや新たに付け加える評定項目があると考えられる。今後、評定項目の見直しについて検討していくことが望ましい。

また、この制度全般として、育成型の評定制度としていくことを検討すべきである。

 校長は教職員と面接し、その者に対する評価や成果についての判断を示しながら、話し合いの中でその者に目標を立てさせる。指導もしながら業務に当たらせ、一定の時期にその成果を聴く。それを繰り返す中で教職員を育成していくという、開かれた形で進められるものである。自己評価制の導入も検討課題となる。

なお、検討に際しては、育成型の評定制度が校長対教職員という構図にならないように、中堅教職員のマネジメントへの参加、協力がポイントになることを注意しておく必要がある。

育成型の評定制度は、指導を要する教職員を出さない方策の一つとして機能するものと考えられる。

さらに、一次評定は教頭、二次評定は校長とすることも検討することが望ましい。教頭に積極的に関わらせることによって、日常的な情報収集や指導に対する教頭の意識や責任感が高まることが期待できる。

 また、評定には、周囲への影響評価(アセスメント)の視点も加味することが望ましい。

 教職員に評価基準のコンセンサスを得ることも大切である。

 

 

(5)総合的な健康管理システムの構築

 学校を巡る諸情勢が厳しさを増す中で、教職員は多忙感やストレスにさらされている。

 心と身体の健康管理は、指導を要する教職員を出さないためにも大切である。

 健康維持のためには、相談や定期健康診断といった予防医学の面が重要であることは言うまでもないが、併せて、業務の分担や進行管理、人間関係といった側面の影響も大きい。

 そういう意味で、管理職の果たすべき役割は重要であるが、一方個々の教職員の自覚に頼る部分も大きい。研修その他の機会を通じて適切な情報提供を図ることが大切である。

また、健康回復に向けた対策も重要である。カウンセリングシステムや復帰に向けたプログラムづくりも検討すべきである。

 さらに、学校には女性職員も多く、セクシュアルハラスメント対策も重要である。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・予防医学の視点

 教職員が気軽に利用できる相談システムや定期健康診断の充実が、今後ますます必要になってくる。

 予防に投資する経費は医療に要する経費と比べると安価で済むという認識のもとで、積極的な対策が採られることが望ましい。

カウンセリングシステムの確立も検討課題である。

・管理職や同僚による実態把握

早期発見、早期治療がキーポイントとなる。本人の自覚はもとよりだが、周りの者が早く気づき、親身に対応することも重要である。そのためには、日頃の人間関係づくりも大切であると考える。

また、セクシュアルハラスメント対策は極めて重要であり、防止のための職員間の話し合いや相談システム、事後の適切な処理なども大切である。

・業務のチェック

特定の者に業務が偏ったり、能力や適性に見合った業務分担になってないなどの状況がある場合、業務上の滞りだけではなく、個々の教職員の健康にも悪影響が出ることが懸念される。

 管理職は、個々の職員の能力や適性を十分見極めた分掌や教職員間の業務分担の平準化、業務のスリム化などに努める責務がある。

また、場合によっては学校全体で取り組んだり、進行管理に努め同僚の協力を求めるなどの適切な対応を行うことも大切である。

休暇制度を活用するなど心身のリフレッシュを図ることも重要である。

 

・医学的治療

 病気が確認された場合は、管理職は適切な指導を行い、休暇制度等を活用させ早期復帰を実現できるように努めることが必要である。

 また、主治医や本人と連絡を取りながら、復帰後の体制づくりにも注意すべきであると考える。復帰に向けたプログラムづくりも重要である。

 

・情報提供

職員会議や各種研修の場などを通じて、健康管理に必要な情報提供に努めるべきである。 特に、メンタルヘルスに関する情報提供は十分に行うことが必要であると考える。

 

(6)より良い人間関係を築くための工夫

学校は本来、組織として活動すべきであるにもかかわらず、ややもすると教職員の横のつながりが薄れ、孤立した教職員が生じるケースがある。これには、様々な要因があるが、こういう事態を少なくしていくことが予防策として重要である。

 いわゆる学校の鍋蓋組織や学級王国といった特性、教職員一人ひとりが独立の責任を持って子どもたちに当たるという実態、外の世界との接触が少ないことから変革や多様な価値観を受け入れにくい体質などから、教職員は職場の人間関係が希薄になる可能性をはらんでいる。

 管理職は今まで以上に、率先して職場の人間関係づくりに努めることが必要であり、教職員個々も良好な協調関係を構築するように努めるべきである。

特に若年層には人間関係づくりが不得手という傾向もある。また、中堅職員が、先輩として、中心として積極的に教職員間をまとめたり、指導したりすることが少なくなっているとの指摘もあり、点検や改善がなされることが望ましい。

また、教職員構成が小学校を中心に、女性教職員の比率が圧倒的になったり、若年層が急激に少なくなっている等の実態もあり、そういった面からの分析も必要である

さらに、子どもたちや保護者の多様な価値観のもとに苦情やトラブルの発生が見られ、教職員間に多くのストレスを生んでいる状況もあるが、一方でこのことが教職員間の結束を固めることにつながっているケースもある。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・管理職の役割

率先して職場の融和に努めることが大切である。そのためには、校長・教頭がよく連携し、一体となって取り組んでいくことが必要である。

特に教頭は職場の潤滑油としての役割が大きいと考える。

・中堅教職員の役割

良き先輩として、目標となったり、アドバイスを行うとともに、職場のまとめ役としての自覚を持つことが必要である。

広い視野や説得力を持ち、良き聞き役となって相談に乗ったり、上手に指導ができるといった能力が発揮されなければならず、これらは将来の管理職として求められる資質とも言える。

 特に若年層との関わりは重要で、今まで以上の積極的な取り組みが望まれるし、若年層にも先輩の胸に飛び込んでいく勇気と謙虚さが必要であると思われる。

・風通しの良い職場に

管理職だけでなく、教職員一人ひとりが何でも話し合える、相談し合える、助け合える職場づくりに努めなければならない。そのためには、教職員間が開かれたものになる必要があり、学校が開かれたものになっていくことも一つのアプロ−チになるものと考える。

 また、逆説的ではあるが、学校の危機に際して結束するという実態もあることから、そういった契機を通じて芽生えた協調関係を大切にすることも重要である。

 固定化された人間関係では問題が生じるケースも多いことから、人事異動による適切な新陳代謝も必要であり、広域交流人事も新しい風を起こす意味で有効であると考える。

既に述べたようにセクシュアルハラスメント対策も重要である。

・ゆとりづくり

 安易な教職員の増員は望めないが、業務の見直しや工夫によって、ゆとりづくりに努めることも大切である。

 業務の進行管理に努める中で、やるべき時はやるが、休むべき時には休むというメリハリも必要であり、職場融和を図るリクレーションも企画していくことが望ましい。

 

 

 

 

 

 

(7)職場の条件整備の推進

 働きやすい職場づくりのためには、教育行政上の条件整備も必要であり、その意味で予防策の一つと考えられる。

教職員が意欲的に教育活動に取り組むためには、使命感のもと目標に向かって思う存分力を発揮し、その達成感や充実感を認識することが大切であり、そのための支援策として行政上の人的、物的条件整備が必要な場合があると考える。

 特に小学校で言われる学級王国や多忙感のある学校における、ゆとりづくりのためには、適切な情報提供のもとに現人員内での工夫を行うことや、目的を明確にした特色ある人員配置として、TTの効果的な実施方法の研究や小学校における専科制や複数担任制の導入などについて検討していくことが必要である。

 

 また、行政上の各種事業の点検見直しや事業の推進システムの見直し、簡素化などについても検討していくべきである。

休暇制度の有効活用の周知や、利用しやすい雰囲気作りなどにも努めることも必要であると考える。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・予算措置

 現在取り組みを始めている校長裁量予算など、学校や教職員が主体性を持って取り組める予算枠の拡大が重要である。

 また、県や市町村の教育委員会は、財政当局に対して教育改革の重要性について理解を深めるよう積極的に働きかける努力をする必要があると考える。

・人的措置

安易な人員増は県民の理解は得られず、財源的にも望めないが、特色ある学校の取り組みに対しては思い切った措置を講じるなどメリハリのある教職員配置の工夫が必要である。

特に、国の次期定数改善計画の動向には注意し、学校を支援するための最大限の努力を行うべきであると考える。

・規制緩和や権限委譲

 地方分権が進められている中で、規制緩和や権限委譲といった社会の流れに沿った措置がさらに進展していくことが望まれる。

特に校長権限は今後拡大される見込みがあることから、校長は時代を見る目や経営感覚、リーダーシップ性などが一層求められることになる。

 そういう意味でも管理職の登用や研修の在り方の点検は重要であると考えられる。

・教育行政上の業務の見直し

各種事業は常に点検や成果の検証を行い、必要な見直しを不断に行っていくことが重要である。要する経費や時間と、それらによって得られた成果を考慮しながら、思い切った見直しも必要であると考える。

また、事務処理に関しては常に簡素効率化の視点で見直しを続けることが大切である。

 

 

(8)地域や家庭への情報発信と説明責任

学校が、地域や家庭との適切な役割分担や十分な連携を実現していくには、教職員や学校の活動が保護者や地域に正しく理解されることが必要である。そのことによって、地域や家庭の協力、支援が得られ、学校の教育は活性化し、教職員も伸び伸びと意欲的に活動できる。そういう意味で、問題の予防策の一つとして重要である。

 保護者や地域に学校活動を正しく理解してもらうには、学校は適切な情報発信を行い、説明責任を果たしていくことが必要である。

情報の流れは、双方向性であることが重要であり、広範囲の情報収集が大切であるとともに、できるだけ多くの情報発信がなされなければならないし、発信が多ければ多いほど入ってくる情報量も多くなると考える。

 学校の情報発信は総じて不十分という指摘がなされ、説明責任も果たせてないという声も多い。子どもたちに関わることだけに、特にいわゆる「悪い」情報は出しにくいという体質があり、また、社会の各界との日常的な接触が乏しいため、説明の仕方の熟度が高まってないとの批判もある。

努力や成果を積極的に発表していくと同時に、学校の抱える課題や苦悩についても率直に公表し、訴えることによって、学校に対する地域や家庭の協力、支援を得るように努めることが必要である。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・情報発信

 まず、学校における様々な情報の分類、整理が必要である。学校組織は横型のいわゆる鍋蓋的組織であり、校長や教頭に情報が集まりにくいという特性がある。組織内の風通しを良くすることによって、最新の情報がいつでも引き出せたり、重要な情報が共有できることなど情報の流れのシステム化に努めるべきである。

 次に、現在、開かれた学校づくりの一環として設置されている組織やPTA組織を活用するほか、家庭や地域への通信、マスコミへの情報提供など考え得る様々なチャンネルを通じて積極的な情報発信の取り組みがなされることが望ましい。

その際には、情報の性格に応じて、何よりもスピードが求められる情報、正確性が求められる情報、慎重かつ十分な調査が必要な情報など、それぞれの性格に応じた適切な対応が必要である。

 また、いわゆる「悪い」情報の蒸し込みは、学校にとって何ら益するものがないことを認識しなければならない。指摘を受けて出てくるその種の情報が、学校の信用に大きな影響を与えることは多くの事例が示している。

 なお、個人に関わる情報については、人権やプライバシーに十分な配慮がなされるべきであることは当然である。

 

・説明責任

 学校から必要な情報提供や説明がなされないという指摘もある。地域や家庭と共に歩む開かれた学校とするためには、理解や納得の得られる十分な説明が必要であり、また、学校は、大切な子どもたちをお預かりしているという立場上、それを行う責任がある。

 教育活動は専門性が高いという理由で、従来は、ともすればこの説明がおろそかになりがちであったが、現在の社会経済情勢のもとでは、学校が独自で解決できる問題は限られてきていることを認識しなければならない。

 地域や保護者から求められる場合はもちろん、学校側から積極的に説明を行っていくことが必要である。

 説明の内容は、学校としての教育方針を始め、課題への対応策、各種の活動状況など、幅広い分野について随時実施していくことが必要であり、かつ、わかりやすく、理解しやすいものとなるよう努めなければならない。理解が得られるまで、根気強く説明することも重要である。

・インターネットの活用

開かれた学校として、情報の発信や収集、説明責任を果たしていくためにインターネットを活用することも効果的である。

 ホームページを開設したり、電子メールを活用することによって、学校と、保護者や地域が互いに理解を深めることにつながると考えられる。

 特に、従来学校との関わりが比較的少なかった人々から意見が寄せられることが期待できる。

 急速なインターネットの普及は、今後とも情報伝達手段としての重要性を増すことが確実であり、各学校では積極的な取り組みが必要であり、県や市町村の教育委員会は積極的な支援に努めることが望ましい。

 

・実施担当者

 各種の情報提供や説明責任を果たすことは、管理職のみの役割ではなく、教職員一人ひとりが常に念頭に置いて対応していくことが求められる。

 そのうえで、さらに、学校に広報担当者を置くことも検討していく必要がある。開かれた学校の窓口として、また、情報管理システムの一環として担当者を設置し、日常的に業務として学校に関するすべての情報提供や説明責任を果たしていくことも地域や保護者にとって、わかりやすく、利便性が増すことになると考えられる。

 その場合、教頭またはそれに次いで中堅教職員が適任であると考えられる。

 また、そういった経験を積んだ教職員を増やしていくことは、この面での学校のスキルアップにもつながるし、管理職登用の中で、その種の経験を評価することも検討の余地があるのではないかと考える。

(9)地域や家庭をはじめ社会全体での支援

 学校が抱える課題は多く、また、学校が独自で解決できる課題も限られてきている。

 指導を要する教職員を出さないために、地域や家庭をはじめ社会全体のサポート体制の充実も必要である。

 資質や適格性が問われる教職員以外については、社会との連携や有形無形の支援を実現することによって、本人の本来の能力の発揮、意欲の向上や自信回復などが図られる場合があると考えられる。

 当然のことながら、学校や本人の努力、情報発信や説明責任の履行などが前提となるが、地域や家庭が、学校と連携するとともにそれぞれの役割分担を果たすことにより、皆で子どもたちを育んでいくというネットワークができ、教職員も活き活きとその能力を発揮できるようになる。そのことが、今、何よりも求められている。

また、教職員も人間である以上完全ではない。プロとして期待される能力をすべて傾注する責務があるが、一方で、周りの者が、温かい目で見たり可能な支援を行うことも必要な場合が生じるであろう。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

・地域や保護者の積極的関わり

 学校、地域、家庭の三者で子どもたちを育んでいくという視点のもと、それぞれの役割を再認識し、実行していくことが大切である。

 そのため、教育委員会や学校ではPTA活動の活性化や開かれた学校づくりの一層の推進を図り、互いの意志疎通に努めるべきである。

また、各市町村に配置されている地域教育指導主事の役割は大きく、学校と地域のネットワークづくりをさらに進める必要がある。

・理解と支援

社会経済情勢の急激な変化の中で、子どもたちが多様化してきており、学校の対応も変革を求められるとともに、地域や保護者の学校に寄せる思いも様々なものが存在するようになってきている。

 そういった思いの中の一部には、明らかに学校に過度の負担を求めたり、余りにも配慮に欠けるものも見受けられる。

 学校や教職員の活動に不十分な面がある場合には、厳しく指摘していくことは必要であるが、そこまで至らない場合には、温かい目で理解に努め、可能な支援を行っていくことがなければ、学校が、ひいては子どもたちが伸びやかさを失ってしまうことになりはしないかと危惧する。

そのため、教育委員会や学校は、学校が果たすべき役割や取り組み状況を十分に伝えるとともに、地域や保護者と本音で話し合う場を多く設置するように努めることが必要である。

・社会全体の取り組み

 行政機関、直接学校に関わってない各種の法人や団体など、また、報道機関にも可能な範囲で支援を要請することが望ましい。そのために、教育委員会や学校は、日常的に情報を提供したり、接触する機会を増やすなど積極的な取り組みを行うとともに、学校を開かれたものにして、誰もが気軽に関わることができるように努めることが必要である。

 

 

10)使命感・プロ意識のもとに自己変革

これまで、いろいろな制度や職場の在り方、地域や家庭の支援について述べてきたが、指導を要する教職員を出さない予防策の原点は、個々の教職員の自覚に帰する部分が大きいし、また、その自覚がなければ地域や家庭の理解も得られないと考える。

 教職員は、使命感とプロ意識を持って職務に精励するとともに、常に時代々々の要請に応える自己変革を果たしていかなければならない。

子どもたちの教育に従事するという職務の重大性を十分認識する中で、教育公務員としての高い倫理性、多様な子どもたちを受け止めることのできる広い視野や豊かな人間性を備えるとともに、常に初心に返る謙虚さ、自己を知り他者を思いやる心を持ち続けることが求められる。

 こういった認識のもとに以下の対策を採ることが望ましいと考える。

 

・使命感とプロ意識

子どもたちの教育に携わるという使命感やプロ意識に疑問を投げかけられる教職員が存在することは、極めて残念である。おそらく、本来はすべての者が教育に対する情熱を持って採用されてきたはずである。

 採用後、なぜそういった事態に陥ったかの分析も必要であるが、教職員研修では、お互いに話し合う中で使命感を再認識したり、初心に返って考える時間を持つような研修内容の設定も検討すべきである。

 また、職場内でもそういった取り組みが日常的にできるような環境設定に努めることが必要である。

 教員は専門職としてのプロ意識も持ち続けなければならない。保護者や地域からは、例えば、子どもたちが学校を楽しいと感じたり、学力を向上させるという成果を上げることがプロの仕事であり、できない場合にその原因を他に求めるようではプロとは言えないという厳しい見方も寄せられていることを付言したい。

そのための自己研鑽に努めるべきであり、教育委員会や学校でもそういった機会を設けることが重要である。

・服務規律の確保

教職員による不祥事が、学校や教職員の信用に与える影響は非常に大きい。勤務時間の内外を問わず、高い倫理性が求められるとともに、勤務時間や職務専念義務などの服務規律の遵守は基本的な教育公務員としての要件である。

教職員一人ひとりが十分な自覚のもとに、相互にチェックもしながら県民の期待に応えるように努めることが必要である。

 一部の不心得な者が引き起こした事例によって、教育界全体の信頼を損なう場合のあることに教職員すべてが思いを致し、再発防止に努めることが望まれる。

・外部との交流

 学校の教職員は、子どもたちや同僚という狭い範囲の交流に陥りがちな特性がある。

 教職員は、自ら積極的に外部の者と関わる時間と機会を工夫し、その交流を通じて社会の動きや違った考え方に触れることによって、外から見た学校の実態を知り、広い視野を養ったり、謙虚さを持つなど自己研鑽に努めることが大切である。

 教育委員会や学校も、教職員がそういった機会を持つような環境づくりに努めるとともに、必要な情報提供も行っていくことが望ましい。

 

 

おわりに

 学校や教職員が抱える課題は多く、将来にわたって一層増えていく懸念もある。

 保護者や地域をはじめ、我々社会全体で学校を支えていくという意識がなければ、学校の将来は楽観できない。

 そういった学校で日々、戸惑いや不安を感じつつひたすら努力している多くの教職員がいる。21世紀を担う子どもたちの成長の大きな部分が、それらの教職員にかかっている。

 一部の不心得な教職員の言動や資質・適格性に問題のある教職員の存在が、学校全体の評価に大きな影を投げかけている。「学校の常識は社会の非常識」といった表現も頻繁に使われ、改革の歩みののろさや子どもたちが想像を超える行動に出ることなども相まって、今や、全国的な風潮として学校、教職員バッシングの嵐が吹き荒れているとも言える。

 我々が、本来なすべきは学校、教職員を信頼・支援することである。学校、教職員側も謙虚な反省やさらなる自己改革が必要な部分は確かにある。互いが信頼し合い、改善し合って、共に子どもたちを慈しんでいくことが何よりも大切であると考える。

 指導を要する教職員対策を中心に、教職員の人事管理の在り方全般を議論してきた我々は、最後に以上のことを付言して第1次の提言としたい。