研究について

研究主題:「子どもの心に火をつける体育授業」

運動の本質的な特性や魅力に触れる楽しさを味わい,資質・能力をバランスよく育成する指導の工夫


主題設定理由

今の子どもたちやこれから誕生する子どもたちが社会で活躍するころには,生産年齢人口の減少やグローバル化の進展,ICTやビッグデータ,人工知能(AI)等をはじめとする絶え間ない技術革新により,社会構造が急速に変化していく時代となっていることが予想される。
その激しい社会変化の中において学校教育では,子どもたちが,様々な社会変化に向き合い,自ら判断し,主体的に関わり,他者と協働し課題を解決しながら,よりよい社会とよりよい人生を創り出せる力を育成していくことが求められている。こうした時代を迎える中で,一人一人が豊かな人生を送り,安心して暮らせる社会を実現するため,教育が果たす役割は重大であり,教育の在り方も進化を遂げなければならない。また近年,スポーツの多様化は大きな広がりを見せ,特に競技スポーツの拡大傾向が加速している。2020年の東京オリンピック・パラリンピックはもとより,世界規模のスポーツイベント開催に向けて多くの種目でジュニア層からの競技化が進んでいる。こうした競技面に加え,市民スポーツも大きく広がっている。老若男女や障害の有無に関係なく,各々の力や関心に応じて参加できる市民向けの大会が各地で開催されるようになり,本県でも龍馬マラソンは開催7度目を数えた。地方の特色を生かし,観光や行事と連携した振興事業が数多く見られるようになっている。加えて,Eスポーツという新たな運動に対する概念も生まれてきている。こうしたスポーツの多様化,スポーツへの関わり方の多様化が進む中,新学習指導要領が示された。教育課程全体を通して3つの柱で「資質・能力の育成」が掲げられ,そこでは将来的に児童が社会の変化に,主体的に向き合って関わり合い,自らの可能性を発揮し多様な他者と協働しながら,よりよい社会と幸福な人生を切り拓き,未来の創り手となるために必要な力を育むことを目指している。体育科もその大きな枠組みの中にあり,「生涯にわたる豊かなスポーツライフ」という視点が小・中・高等学校における学校体育はもとより,学校教育を終えた視点も想定していると言える。
社会が抱える諸問題に向き合い,子どもたちの誰もが夢を持ち,その夢を紡いでいく上で,子どもたちに健やかな心身の育成を図ることは,極めて重要である。体力は,人間の活動の源であり,健康維持のほか意欲や気力といった精神面の充実に大きくかかわっており,生きる力を支える重要な要素であると言える。体を動かすことが身体能力を身につけるとともに情緒面や知的な発達を促し,集団的活動や身体表現などを通じてコミュニケーション能力を育成することや,筋道を立てて練習や作戦を考え,改善の方法などを互いに話し合う活動などを通じて,論理的思考力を育むことにも資することを鑑ながら,新学習指導要領が目指している「資質・能力」をバランスよく育成していくことが大切である。児童の興味や関心を喚起した学習過程を構築することで,学習効果は増幅される。その学習の中で,新しい知識や技能を得て,それらの知識や技能を活用して思考することを通して,知識や技能をより確かなものとして習得するとともに,思考力,判断力,表現力等を養い,新たな学びに向かったり,学びを人生や社会に生かそうとしたりする力を高めていくことができる。教師が児童の学びへの興味や関心を喚起しつつ,学習内容を明確にした指導を行い,深い理解を伴う知識・技能の習得につなげていく。そのためには,児童がもつ知識・技能を活用して思考することにより,知識・技能を相互に関連付けてより深く理解したり,学習内容を他の学習や生活の場面で活用できるようにしたりするための学習を充実させていく必要がある。また,知識・技能の指導に偏ることなく,主体的に学習に取り組む態度や思考力・判断力・表現力も育成することができるような学びの積み上げも重要である。

高知県の目指す体育学習の在り方

高知県小体連では,これまで「運動好きな子どもを育てる体育学習」という研究主題のもと,①魅力ある教材の工夫,②運動の特性に応じた動きづくり,③言語活動(かかわり)を視点として子どもが運動の楽しさや魅力を感じながら学習の中で成就感や達成感を味わう授業づくりに取り組んできた。さらに,そこにユニバーサル・デザインの視点を生かすことで,どの子もが「できる」授業の具現化を目指してきた。
本県における子どもたちの体力の現状は,平成20 年度の全国体力・運動能力,運動習慣等調査の結果において,男女ともに全国最低水準であったが,その後は着実な改善傾向を示している。平成30年度の調査結果では,体力合計点は,男子が前年度より0.13 ポイント,女子が0.29 ポイント上回り,女子は過去最高,男子は過去2番目に高い結果となったが,全国と比較すると,小学校の男子が0.26ポイント,女子が0.32ポイント全国平均を下回っている。1週間の総運動時間や運動への愛好もほぼ全国平均に近い値となり,全体的にみて上昇傾向にあるとは言え,まだまだ改善の取組を継続していく必要があると言える。
そこで,体育科の目指す「豊かなスポーツライフの実現」に向けて,1時間の授業の中で子ども達が目の前の「運動」や「仲間」と豊かに関わりながら,力いっぱい運動することが重要であると考える。そのためには,授業力の向上が必須条件となってくる。各運動の本質的な特性や魅力について熟考することはもとより,「体育の学ぶよろこび」(できる・知る・見る・支える)を目指しながら,学習内容・学習環境・学習課題・学習過程・評価等とは何かを明らかにすることが重要である。児童の運動に対する興味や関心は,既習の経験等により様々である。児童一人一人の興味や実態等に応じて,誰もが「楽しい」「またやりたい」「もっとやりたい」という思いや願を引き出すことのできる学習を進めていくことが重要である。体育の授業での成就感や達成感,満足感が,深い学びや次への学習意欲となっていく。その学びの往還を経て,運動への関心や自ら運動する意欲,課題設定能力や課題解決能力,知識及び技能が育成されていく。指導内容を明確にし,どの子も楽しむことのできる体育,どの子も達成感を味わうことのできる体育,どの子伸びる体育を目指し意図的・計画的な学習指導を展開していきたい。